記憶を取り戻すために㈣
文字数 1,008文字
────知ってる。
スローモーションのように、私の前をたくさんの人が行き来し、会話が耳に入ってくる。
さっきとまったく同じだ。
名無しさんを見つけなきゃ!
私はまわりをぐるりと見渡す。
「────いたっ!」
人込みをかき分け、ちょこちょこと歩く黒猫。
見失わないように、私も前へ前へと、もがくように追いかける。
「すみません、前へ……、きゃっ!」
横道から出てきた女性にぶつかり、私はそのまま後ろへと尻もちをついた。
いたた……。
そういえば、さっきもそんなことあったんだっけ?
「ご、ごめんなさい、大丈夫っ!?」
尻もちをついた私に、心配そうに手を差し伸べるきれいなお姉さん。
「すみませんでした。前を見てなくて……」
「これからは気を付けてね」
さっきと同じ流れ。
お姉さんの手をつかんで立ちあがったそのとき、腕に抱える花束を見てはっと息をのむ。
「その花……っ!」
「え?」
「いえ、なんでもないです。ごめんなさいっ!」
私は言いかけた言葉を飲み込み、お姉さんにお辞儀をしてばっと駆け出した。
まさか……、
あの花…………っ!
人込みを抜けると、名無しさんがちょうど横断歩道を渡りはじめていた。
信号がチカチカと点滅し始めるなか、私は迷わず横断歩道へと飛び出した。
考える余裕などないとわかっているなか、横断歩道の脇に供えられていた花を見る。
『あれ、俺の……』
『へ?』
『……三年前の今日、俺はあの交差点で死んだんだ』
花が……、
ないっ!
やっぱり、あの花……っ!
さっきのお姉さんが供えたものだったんだ……っ!
カイと、あのお姉さんって────!
《おい、余計なこと考えんな。はやくオレを追いかけろ! 時空の扉に、間に合わなくなっちまうぞ》
突然、頭の中で名無しさんの声が聞こえた。
うるさいわね、私がどう思おうと関係ないでしょっ!
てか、時空の扉って…………!
そう言い返したとき、目の前にトラックが迫ってきていた。
プップッ──────!
まさか私……、
また死んだりしないでしょうね?
プップッ──────!
もう死にたくないっ!
心の中で強くそう叫んだとき、フワッとまぶしい光に包み込まれた。
……なに……コレ?
まぶしくて、目が開けらんないっ……!