運命のとき㈤
文字数 833文字
ゴォ─────!
その場で動けないでいると、パパが私を呼ぶ声がした。
「……初樹っ!」
そのあと、なにが起きたのか、一瞬すぎてよく覚えてない。
覚えているのは、パパと海が目に入って、パパが私をかばって、後ろによろけた私を海が支えた。
そして、そのまま、海といっしょにゴロゴロと体を打ちながら草むらまで転げ落ちた。
「クククッ! つくづく運のいい奴だな」
聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
うっすらと目を開けると、黒猫が私の顔をのぞき込んでいた。
「……私、死んだの?」
「なら、自分の目で確かめるんだな」
ドクン、ドクン……。
自分の鼓動を確認しながら体を起こすと、海がそばで気を失って倒れていた。
頭がもうろうとするなか、私はすり傷だらけの体で土手を
すると、目の前には大型トラックが停まっていて、あたり一面は血の海と化していた。
チョコが、うつ伏せで倒れている人のところで吠え続けている。
前にも見た光景────。
またあの悪夢が繰り返された……。
私はまた、パパを殺してしまったの?
「……は……つき………」
かすかに、私を呼ぶ声が聞こえた。
「……パパ!」
私は、うつ伏せで倒れているパパの背中に抱きついて、すすり泣いた。
「……大丈夫、かい。傷は……ない、か、い?」
「大丈夫だよ、パパ、もうしゃべらないで……! きゅ、救急車…………っ!」
「……お母さ……んの、若い頃に……そっく、り……だ…………」
「……え?」
「向こう……では、君も……、お母さんも、笑って……いる、かい……」
「……パパ……、やだ、お願い、死なないで……! ……うん、うん、笑ってる……よ……っ!」
「……よか……、た……」
パパは息が続く限り、今にも絶えそうな弱々しい息づかいで私に話し続けた。
チョコは大好きなパパのそばで、いつまでも泣き止まなかった。
***