第2話

文字数 575文字

 いつの間にか美里は砂浜にいた。懐かしさが込み上げ一気に昔に戻っていく。小さい頃、家族でよく海水浴にきていた茅ヶ崎の海だ。夏場は人でごったがえしているはずなのに、父と母、弟の家族以外砂浜に誰もいない。弟は早速海岸を駆け出していく。



『美里ー。早くおいで』

 自分も小さな子供に戻っているから母も若い。笑いながら美里を手招きしている。置いていかれたくなくて。早く母親のそばに行きたくて。急いで立ちあがろうとするけれど、砂に足を取られてうまく走れない。じたばたしていると母親がゆっくりと近づいてきて、にっこり微笑んだ。

『ゆっくりでいいんだよ。美里はのんびり屋さんだけど、ちゃーんと一人で立てるのをお母さんは知ってるからね。大丈夫』

 見上げるとそこには優しい母の笑顔。ほっとすると同時に、どこか消えてしまいそうな儚い空気も感じて、美里は幼いながらも不安になって、慌てて手を伸ばす。

『お母さーん!』

 そう呼んだ刹那、耳元でスマホが震えながら振動したから、美里も共振するようにビクッと身体を震わせ目を開けた。寝ぼけ眼でスマホを見ると、上司からの返信だった。今日は急ぎの仕事もないからゆっくりするように。そのメッセージを見て美里は起き上がる。目尻に溜まっていた涙がすうっと頬を流れおちて、慌てて手の甲でふいた。まだ母親の声が美里の鼓膜の奥で響いているような気がした。
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