第1話

文字数 576文字

 起きたくない。美里はそう思いながらリンリンと騒ぎ立てる目覚まし時計をクイズの早押しみたいな勢いで止めたら、弾みで床に落ちてしまった。



 拾わないと。そう思うのに眠気の沼にまた引きずり込まれてそのまま寝てしまった。ハッとして美里が枕元のスマホを見たときには、七時半を過ぎていた。

「えっ?!」

 美里は小さくそう叫んで慌ててベッドから飛び起きる。そうしたら今度は床に転がってしまった目覚まし時計におもいっきり躓いた。

「いったー!!」

 小指に当たって痛みは相当なものだったけれど不幸中の幸い、転ばずに踏みとどまった。時計も数々の衝撃をものともせず、ちゃんと時を刻んでいる。美里は安堵の吐息をついた。

 スマホのアプリを確認したら、電車が遅れていた。これからノロノロとしか進まない満員電車に乗らなくてはいけない。

 (行きたくないなあ、会社)

 美里は生真面目な性格で基本ずる休みはできない。多少寝坊しても急いで用意をして遅刻覚悟で出かける。けれど今日は身体も心も切実に行きたくないと訴えている。なんとなく身体もだるい。

 美里はしばらく視線を漂わせていたけれど、ひとつ吐息をついた。それから体調不良のため休む旨をチャットアプリで上司宛にすばやく打ち込んで送信した。そうしてゴロンとまたベッドに倒れ込む。体はすぐにベッドに馴染んで、そのまま意識も底の方へと沈んでいった。

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