第3話

文字数 479文字

 美里の母親は十年前、美里が二十歳のときに突然くも膜下出血で倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまった。まだ四十八歳だった。

 床に落ちたままのめざまし時計に視線を落とすと九時十分を指している。美里が高校生の時に母親へプレゼントした時計だった。リンリンと鳴る音とその勢いがすごいから寝坊しなくていいわあ。そう言っておっとり笑っていた母を思い出す。形見として美里が引き継いで十年、健気に時を刻み続けている。

 母親が亡くなって一年ほどは思い出すたびに涙していたけれど、月日が経つごとに悲しみは薄れていき、ここ数年は思い出しても泣くことはなくなった。こうして母親の夢をみるのも泣くのも久しぶりだった。

「……お母さん、私どうしたらいいかな」

 時計を持ち上げてちょんと突くと、美里のお腹がきゅるると切なげな音を響かせたから、つい笑ってしまった。食欲なんてあまり感じていなかったけれど、身体は欲していていたらしい。残念ながら冷蔵庫は空っぽだ。ほんの少し寝たからか、怠さも少し取れている。とりあえず外に行こうと美里はよいしょと掛け声をかけてベッドから降り、出かける準備を始めた。
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