聖家族の誰にもナイショの秘密①
文字数 1,093文字
・ふわふわの真っ白な綿菓子
・マジパン細工の人形「聖家族」
オレンジ色の暖かな火が灯った暖炉の傍、もふっとしたシロクマの毛皮の上に、ヒヨルは寝転んでいる。
真冬にも関わらず、出兵パレードを送迎するために着せつけられた、褐色の開襟シャツ、黒の半ズボン、団員帽、黒のネッカチーフ、革製の腕章という出たちは、
もちろん十歳に満たないヒヨルは正式に入隊することはできないから、ベルリン所在地の《青年音楽部隊》の特別名誉団員という態で仕立てられたものだ。
裁縫上手なブリュンヒルドに師事する形で、襟ぐりデザインや袖丈、腰回りなどに、手縫いで細かい工夫をしたのはミツハである。
連日睡眠時間を削ってまで制服の完成度にこだわった異国の少年に、顔馴染みの
ミツハとしては、軍隊の下位組織であるHJの制服をヒヨルに着せることからして論外なのであった。
ドイツの少年少女たちが十歳から強制的にHJに所属させられるという法律が、国の最高権力者であるヒトラー総統によって定められている以上、ヒヨルもこれに逆らうことはできない。
ましてこのヴィラに集められている特殊な事情のある少年たちは、一般市民に比べてかなりの好待遇を受けていた。これを正当化する意味でも、パレードの参加は義務だった。
ならばせめてヒヨルの天真爛漫な可愛らしさを少しでも損なわないように、とミツハなりに工夫しただけのことなのである。
そんな努力の結晶の制服に、たった今白い抜け毛がごっそり貼りつくのを、ヒヨルは全くかまっていない。
満腹の白猫のようにごろごろしながら、ティータイムのテーブルセッティングに忙しいミツハに、「2」と書かれた空色の卵を、またもぱかっと開いて見せてきた。
プレゼントボックスの中には、真っ白な綿菓子がこれでもかというほど詰め込まれており、その真ん中にはマジパン細工の人形が鎮座している。
よほどそれが気に入ったのだろう。朝から見せられるのは七度目だ。
その度に、どうしてお嬢さまはこんなに天使じみて愛らしいのか、とミツハの胸は痛みを覚えるほど高鳴った。
いや、天使なんぞよりもっとずっと可愛いらしい。
この地上では比べようもないほどの、生まれながらの女神のように。
その無垢な瞳にまっすぐ見つめられる度に、全幅の信頼を寄せてくれるこの瞳に相応しい清廉潔白な自分であらねばと、ミツハはしゃきりと姿勢を正すのだった。
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