2020年9月

文字数 3,220文字

「オフィシャル・シークレット」
イラク戦争の頃に、米英両国による「国連安保理の非常任理事国にイラク攻撃への賛成票を投じさせる為の非合法な裏工作」についてリークしたGCHQ(イギリスの情報機関の1つ)職員についての実話を元にした映画。
実は、イギリスにおける公務員による国家機密漏洩を防止する為の法律は、サッチャー政権に時代に改正されている。どうしてかと言えば、要はフォークランド紛争に関するサッチャーにとっての「不都合な真実」を暴露してしまった奴が居たんで、二度とそんな事態を起さないように……まぁ、この時点で、ロクデモない法律なのは予想が付くが、何と、この法律、違反したが最後、(守秘義務が有る筈の)弁護士に自分の弁護に必要な情報を教えたりすると、更に罪が重くなる可能性が有ると云う……何だよ、この無理ゲーは??
ところが、何と検察側が圧倒的に有利な筈の主人公の刑事裁判は、「検察側が起訴を取下げる」と云う「えっ??」なオチになる。では、どうやって弁護側が検察側を「試合放棄」に追い込んだかは……実際に御覧になってのお楽しみ。

「ディヴァイン・フューリー ─使者─」
「格闘家にしてエクソシスト」と云う中学生マインド全開の発想をホンマに映像化してしまった作品。
「今日はあんまり感動とかしたくない」「今日は、人生観が一変したり、『今年観た映画の中でNo.1』候補の映画や映画史を塗り替える級の作品を観るには、ちょっと脳味噌の調子がよろしくなくて、情報処理が追い付かない」的な日に観ると十分楽しめるぐらいの映画。
この映画をやってた映画館は韓国映画をよくかける所で、数年前に「コクソン」「お嬢さん」「アシュラ」を同じ日に続けて上映と云う中々の暴挙をやった事が有ったが(この映画館で、同じ日に続けて、この3本観たけど、全部面白かったが、脳味噌はパンクした)、その3本の中に、しれっと、これ級の作品が混ってたら、いい脳休めにはなったと思う。
……けなしてる気もするけど、これ位の塩梅のが、一番作るのが難しいのかも。

「ソニア ナチスの女スパイ」「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」
同じ日にナチスのせいでロクデモない目に遭った人についての映画と、スターリンのせいでロクデモない目に遭った人についての映画を続けてみたので、どんよりした気分に……。
そして、「異世界転生して、5ヶ年計画をやって人民を飢え死にさせた件」なる謎フレーズが脳裏に……。
あと、「赤い闇」の方。「美味そうであるが故に、もの凄く吐き気がする」と云うローストビーフが何とも……。

「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」
「パリピなのに一流大学に余裕で合格」「ウェ〜イ系なのに以下同文」「遊んでるように見えたのに、一流大学のスポーツ特待生に」「2留したのにGoogleからスカウトが来る」。
次々と登場する……なろう系が好きな人でも「んな訳有るかっ!!」と言いそうな超チートども。
いや、でも、これがアメリカの高校の現実らしい……。努力って何だ?
ただ、俺が暗い青春を送った地域の進学校では、「補修」と称して成績に関係なく早朝と放課後に正規の授業とは別の「授業」を受けさせられると云う慣習が有り(なので、アニメやドラマでの「成績が悪いので補修」の意味がガチで判らなかった。あれって、成績と関係なく受けるモノだろと思ってたので)……しかし、大学に入り、そして、社会人になってから、そんな慣習が無い地域の人も、普通に大学に合格してたと知って、あれは何だったのか、とこの映画の主人公のような理不尽な気持ちになったものです。
ただ、俺と違って、この映画の主人公達はギリギリとは言え、高校卒業前に青春を謳歌できた訳で……ええ、若い人が俺と同じ悲劇の当事者にならずに済んだ、ってのは、フィクションであっても良いモノです、はい。

「ブルータル・ジャスティス」
高い倫理観を持つらしい監督が、メル・ギブソンの「悪いパブリック・イメージ」(例:人種差別主義者)を逆用した作品。
メル・ギブソンが演じる老刑事のせいで、次々と人が死ぬ。一番悪いヤツではないにせよ、「こいつが、ここで、こうしていれば」「こいつが、ここで、あの罠に気付いていれば」と云うシーンが多い。
娯楽作品の主人公は「自分を犠牲にして何かを成し遂げる」と云うパターンが多いが、本作のメル・ギブソンは金を諦めきれなかったせいで、人死にを増やしていく。
一般的な娯楽作品の主人公が辿るのが「英雄への旅路」なら、本作のメル・ギブソンは「堕落への旅路」「お馬鹿への旅路」をまっしぐらに駆け抜ける。そして、ピカレスク・ロマンとも違い、あまりに馬鹿な最後を遂げる。
アフリカ系の青年ヘンリーを主人公として見れば、メル・ギブソンが演じる停職中の刑事は、事態をどんどん悪化させるお邪魔キャラ……ホラーやパニックものにおける「トゥーミーさん」であろう。
そして、悪党どもの悪夢の如き戦いの果てに生き残るのは……まぁ、ある意味でハッピーエンドなんだろうなぁ……。「悪党とは言っても、とは言え、その中で一番マシ」なのが、総取りする訳なので。

「ようこそ映画音響の世界へ」
よくよく考えれば、IMAXなどの「大画面」を売りにしているスクリーンは、映像だけでなく音響にも凝っている。
ならば、映画における「音」は映像と同じ位の手間がかかっていてもおかくしくは無い。
……で、具体的にどれだけの手間がかかっているかについてのドキュメンタリー映画がこれ。
そこに有るのは、やはり、映像と同じく最新技術・職人芸・新しいアイデアのどれか1つでも欠けては成り立たない世界だった。
2012年の「サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ」と合わせて観るのがオススメ。

「行き止まりの世界に生まれて」
「アメリカ有数の犯罪都市」……しかし、そこで起きている殺人の多くは「家族内」のものだった。
そして、無事で済んでる家庭も何かの問題を抱えており……。
おそらく、これはアメリカだけの光景ではない。
日本も含めた「没落しつつ有る先進国」なら、どこでも起きえる問題なのだ。 一見、全く違うのに、何故か思い出したのは、日本の小林勇貴監督のヤンキー映画。

「鵞鳥湖の夜」
最後の最後で、ジャンルが変ります。(※個人的な感想です)
既に経済大国と化した頃の中国。
しかし、舞台になってるのは、おそらくは南部内陸部の、経済発展から微妙に取り残された地域。
しかも、どうも、省・自治区の境界にある「事件が起きたら、どこの警察が担当するか??」がややこしい事になっている地域と云う設定らしい。(劇中での警察の合同捜査チームのメンバーが「俺、この拳銃使った事無いんだけど」みたいな事を言ってたので、警察の装備etcが違う複数の地域から集められているのかも知れない)
実は、宣伝で、結構、バラしているので、あれであれしてた奴らは一体何者か??や「血塗れのビニール傘」のシーンぐらいしか、映像的な驚きは無かった。
とは言え、「近未来っぽさとショボさを兼ねそなえたガジェット」や「フランチャイズやチェーンが見当らず、個人営業の商店が多い」ってのは、今の中国を象徴している気はする。

「狂武蔵」
アクションが巧い人が大量の相手を戦うシーンを長回しで撮ると云うアイデアは良かったかも知れないけど……アイデア倒れの気もしないでは無い。 あの状況なら、吉岡側は弓矢・鉄砲・罠・毒なんでも使ったり、武蔵の方はエグい手(敵の1人を半殺しにした上で肉の盾にするとか)を使って相手をドン引きさせた隙を付くみたいな手を使った方が、画としての説得力が上がるんじゃね?? って、しないでも無かった。
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