第2話

文字数 1,240文字

 カーテンが開いてから佐藤の話は止まらない。
「1人ね、美人の看護師が居るんだよー!長い髪を編み込んでさ、芸能人の様に華やかでスタイル良くてさ! 」
健太郎はさっき窓を開けて居た看護師が、髪を編み込んでいたのを思い出した。
「あっ、窓越しに見えた看護師さんですかね?さっきチラッと見たけど」
「多分そうだ!見て直ぐに『美人』ってインパクト有る子だから。鴨野花乃(はなの)ちゃんって云うんだ。情に脆くて直ぐ泣くし、驚かせたら物凄く驚くし、でもその驚いた顔が可愛くてさ。まだ新人で初々しいし…親切だしね」
佐藤はかなりお気に入りなのが伝わって来る。健太郎は話の続きが気になった。
「前に俺さ、病院の庭を散歩してたら花乃ちゃんが『佐藤さん花を見てるんですか?』って聞いて来てさ」
「はい」
「『ちょっと、この花よく見て』って顔を近づけさせた時にさ」
「はい」
「捕まえた蛙を目の前に出してやったんだよ!キャー!って花乃ちゃん5m位逃げてたね。花乃ちゃん怒って怒って面白かったよー」
と佐藤はゲラゲラ笑った。健太郎も笑ってしまって、また傷口に痛みを走らせた。しかし笑いが止まらず色々な意味で腹を抱えた。
「佐藤さん、小学生じゃ無いんだから!それに術後なのに笑わされて俺痛い思いしてるんすけど」
「あっ、ごめんごめん。でも俺こんなだから諦めて! 」
 点滴交換にオタフク看護師が入って来た。
「佐藤さん、また同室者の方を笑わせてるの?術後だから程々にね。篠崎さんの入院伸びたら請求は佐藤さんにしますからね」
オタフクとも佐藤は和気藹々として居るらしい。胃とだけ言ってたが何の病気だ?入院生活が長そうに見えるが、だからこその自由度が佐藤からは伺える。胃潰瘍…だとしたらそんなに長い入院になるか?痩せて居るけど元気そうに見えるが…。まぁ良い、平和な入院生活の為にも隣人に介入し過ぎは良くないだろう。知るべき時が来たらそれで良い。俺が退院する迄の1週間の付き合いなのだから。と健太郎は、佐藤とオタフクの会話を笑顔で見つめて居た。
「ねぇ、花乃ちゃんの明日の勤務は? 」
「夜勤よ。佐藤さん楽しみでしょうがないでしょう」
「当たり前だよー。渡さんと違ってさ。ねぇ」
「はいはい、私はオタフクです。そしてふくよかです。佐藤さんに腹の肉分けてあげたいです! 」
「要らない要らない!中性脂肪過多になるわ! 」
「遠慮要らないわよ」
「遠慮してないしてない! 」
最高のコンビだ。そしてオタフクは渡って云うんだ。健太郎は意外と入院生活が楽しく感じて来た。
「渡さん俺トイレ行きたい! 」
佐藤がそう言うと
「はいはい」
と言いながら渡は車椅子を持って来た。あんなに元気な佐藤さんが車椅子⁉︎一瞬見てて良いのか戸惑った健太郎は目のやり場を探した。
「篠崎さん、ちょっと行って来まーす」
軽快に手を上げる佐藤のパジャマの袖が下がった。その時に覗かせた腕はと骨お皮だった。ショックを受けたが健太郎は平静を保って
「いってらっしゃい」
と仰向けで寝たまま手を上げて返事をした。
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