第57話 一件落着

文字数 973文字

 今日は生活費を貰う日のはず。いつも晩御飯前に渡してくれていましたが……

 キッチンで春キャベツと豚コマの和風炒めを作っていた。そこへ夫がやってきて

「これ、全部使っていいから……」

 ジュージューする炒め物の音で、かき消されるくらいの小声で言った。調理台の端に銀行の袋が。2つ。それを置いて夫はそそくさと風呂場へ。私は料理を作り終え、中身を見た。出して数えた。突き返した分と今月分が同額で入っていた。少し驚いた。何故なら、キャッシュフローで、毎月黒字だと書いていたから。それを自分の預金に入れたり、現金でプールしてランチや外出の足しにしていたことも書いていたから。生活費は削られるだろうと思っていた。

『いいの?このまま貰って?』

 予想していた結果より遥かに甘い結果だったので、何だか変な罪悪感が湧いた。1ヶ月前に私を浪費家の如く疑っていた結果がコレ?どういう心境でこうなったのか聞きたかったが、そんなことを話せる夫なら最初から喧嘩などしない。でも私は、喧嘩をあやふやで終わらせるつもりはなかった。風呂から出てきた夫に

「晩御飯食べたあと、聞きたいことがあるから」

と夫が自分の部屋に逃げ込まないように釘を刺した。私の腕はさておき、晩御飯は美味しくなかったに違いない。私のストレスに比べたら食事の1回や2回情けをかける方がどうかしている。ほどなくいつも通り会話の無い晩御飯は終わった。

 私は生活費を渡された時に考えていたことを言った。メモを見ながら。それは確実に夫に伝えたいこと。これから結婚生活を続けるのであれば、約束してほしいこと。いくつかあったが全部は公開出来ない。あまりにもプライベートなこともあるので一部抜粋。

「お金の話は、結婚当初からの問題。私はずっと言われる通りの生活費でやってきた。家計簿はトラウマになってつけられないから、渡された生活費の中でやりくり出来ればいいと理解してきた。それなのに、あなたはいつも突然思いついたように詳細を教えろと言ってきた。私への信頼感が無いような言われ方もした。今までこんなやり取りが何度あった?その度に私はストレスを抱え、あなたに従ってきた。今後同じことをしない約束をしてほしい」

「わかった」

夫は短く応えた。

 ひとまず一件落着しましたが、夫婦の溝はそう簡単に埋められないはず。でも過渡期にはなったと思います。
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