第43話 伊豆の温泉⑥

文字数 911文字

 家計談義が出尽くしたところで、今度は私が腎臓癌を患ったときの話になりました。

 この友人は、数いる友人の中でも私の病歴を一番知っている。唯一体調の本音が言える人。それでも手術時の話やその後のことまでは言っていなかった。またまた夫が絡む話になる。私が病気のときに夫はどう接してきたかである。

 腎臓癌の手術が予定よりも早く出来ることになった。だが手術当日に夫は居なかった。海外出張に行っていて、帰国は手術の翌日。手術に立ち会ったのは、大学生と高校生になった子どもたちと弟夫婦。もしものとき、夫には会わず最期を迎えるのかと思うと何故か腹立たしかった。もしものときを想定して子どもたちには手紙を書いた。退院は平日だったが、夫は迎えに来てくれなかった。詳しくは覚えていないが、会社を休まなかった。幼馴染が迎えに来てくれ、ベッドに寝かせてくれた。

 友人は憤慨した。何故、退院のときくらい休めなかったのかと。友人の夫とは同じ会社だから、余計にそう思ったのだろう。その後の通院も、もちろん1人で。付き添いで来たのは、医師の説明を受けるときくらいだったか。

 何故、そのように放っておかれたのか。その訳を話すには、夫とは不仲で、原因は家計のことやモラハラ、夫は謝罪ができないなど諸々の話をしなければならなかった。友人は驚いていた。夫を知っているからだ。いや、外見上を。

「さっき、家計のことをアレコレ言ったけど、そんな背景なら前言を撤回したいんだけど……」

 家計に関して、おおよそ納得していた私だったので、それはそれだと思って話したつもりだったが、友人は

「そんなんじゃ、関係は破綻しているんじゃないの?」

辛辣である。でも、否定しきれない。私が夫に留まる理由は何だ?

「あなた、判断出来なくなっているんじゃないの?」

 そう言われて、否定しきれない。友人は昨日の投稿でも書いたが、姉との折り合いが悪い。でも唯一の肉親で、いくら嫌われても縁を切れないと言う。私は夫とは他人だが、友人の気持ちが分かる。子どもたちによって肉親のようになった夫と私。いくら反発しあっても縁を切れない気がするのだ。

 情が入ると判断がつかなくなる。遠い昔に誰かが言っていました。
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