第28話 不信の根

文字数 891文字

 喧嘩の修復ができるかどうか分かりません。

 大喧嘩翌日の晩御飯は作らなかった。信じていない私の料理を、よく今まで食べていたものだ。『都合のいいことだけのツマミ食い』みたいな感じがして嫌だった。日常の好き嫌いは誰だってある。それは個性だと思って妥協もする。そうしなければ結婚生活は続かないと遠い昔に悟ったから。でも、今回は違う。性格や好き嫌いで済まされない土台を揺るがす問題だと思っている。

「いつも嘘ばっかりついて」

喧嘩のときに言われた。

ってどういうこと?

 新婚当時、私の経済観念を疑われ悩んでいたころ、同じ社宅に住んでいた夫の友人の奥さんに相談した。瞬く間に夫の耳に入り

「家計のことを相談したの?」

と聞いた。私は咄嗟に「していない」と答えた。今思えばバレバレの嘘。そのときの嘘はハッキリ覚えている。経済的な不信感を抱かれていたので、本当のことを言ってまた怒らせるのが嫌で保身に走った。その返事が波紋を呼んでしまったのか、夫は友人夫妻の話を私にしなくなった。当時は自分のことで精一杯。私が投げた1つの嘘が波紋の種になった。

 その後、育児と夫からの経済観念的なモラハラ。私は最初は両親へ、そして義姉、最後は義父母にまで助けを求めた。そのときに何度か思うことはあったが、子どもが幼く私の経済力を考えると踏み止まることしかできなかった。そのときも親族へ相談していたことを話さなかった。夫からすれば大きな裏切りで、私は敵対していたと思う。あのとき夫から離婚を切り出されていたら、どうなっていたのか。そうしなかった夫も暗澹(あんたん)たる気持ちの中で、もがいていたのか。結婚して10年くらいの出来事。そうまでして築いてきたのが今の私たちだ。

 私は自分の生活の落とし所を見つけ、方便的な嘘も使うのをやめた。もうずいぶん前の話。私なりの努力はしてきたつもりだが、夫の中では結局、不信の根が伸び続け、断ち切ることが出来ていないと分かった。

 今回の喧嘩は私にとって、節目となるものかもしれない。

 相手のあること。どのような軌跡をたどるのか私も予想は出来ませんが、短絡的に結果を出すのだけは止めようと思います。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み