第45話 目測

文字数 849文字

 父の病院の付き添そいは、私の仕事になっているのですが……

 父の病院に付き添う前日、家でのんびりしていて良かった。そう感じるほど、また少し体力が落ちた気がする。ここで無理して体力を上げるか、それとも身体を休めるか。以前の私だったら、もちろん前者だ。目測を誤って動けなくなったら、私を待つ父に迷惑がかかる。こんなとき私の身体は私だけのものではないと強く感じる。

 老老介護。それは親子であったり、夫婦であったり。私は自分のこととして捉えたことはなかった。だが今は、その言葉が重い。病院へ行く車の中で父に言った。

「私、いつまでも高速飛ばしての付き添い、できないかもよ」

「そうなったら、病院へ行くの辞めるわ」

 前々から両親の命を繋ぐ担い手だとは思っていたが、こう言われるとますます責任を感じる。私の言動がそう言わせてしまったのだが。例えば『弟嫁に連れて行ってもらう』とか『タクシーで行く』などと言ってくれればいいのに。たぶん去年の父ならそう言っていた。

 両親は私が腎臓癌を患ったことを知らない。もう10年近く前の話だが良性の腫瘍だったと言ってある。もちろん腎臓が片方だけということも知らない。両親が心配性なので言えなかった。この判断で良かったのか。最近体力の衰えと共に私の中で不安の種が芽を出そうとしている。私の体力が普通の人よりも落ちていることを知らない。だから、ついつい前述のような弱音を吐いてしまった。

 高齢の親だ。今さら後には引けない。ここからは気力との勝負でもある。体調管理もしていかなくては。それなのに夫からのストレス。事情は違ってもアラ還ともなればこんな環境に身を置くことなど、よくある話か。あれもこれもに対応し、さらに自分のやりたいことにも手を付けて……もう少し交通整理をしなくては。優先順位を考え直さなくては。ここ数日、大喧嘩の余波で思考が停止した。予定は淡々とこなしたが、それ以外の行動はめちゃくちゃだった。何も考えられず、言葉も人の名前も出てこない日があった。

今は少し持ち直しました。
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