第4話 互いの想い
文字数 3,653文字
第一章 未来の憂い
<久我の想い;パリの空の下>
出張も半ば、本社の法務部から国際的な契約に詳しい石田が合流した。石田は堅い法務の仕事のイメージ通り、地味な紺のスーツを着ることが多く、髪も一つにまとめている落ち着いた女性だ。
フランスでの契約は久我が獲得し、詳細は石田が現地調整する手順だ。
久我はフランスのペルノ社との事後処理を石田に任せ、当初の計画にあったフランス各地の挨拶回りで5日間パリを離れることとなった。
ホテルは明日一旦引き払う。離れる前日の夜、石田とディナーを食べながら契約の最終確認を行う。
「しかし、久我さんはさすがですね。大手のペルノ社との契約を勝ち取るなんて。契約内容も事前に連携頂いてましたので、資料作成が早くできて助かりました。
明日からのフランス周遊、お一人で行かれるんですか?私の契約は2日もあれば終わるので、よかったら3日目からフランス周遊に合流しても良いですか?」
何となく女性の甘い眼差しを感じて、期待を持たせないように手短に答えた。
「ごめん、フランスの知人と2日目から合流するんだ。石田さんは早めに仕事終わったら、出張期間は好きに過ごして良いと思うよ。せっかくのパリだし、観光を楽しんで」
石田の瞳から僅かな希望が消えた気がした。
そろそろ会計して、ホテルの荷物まとめるか。
「久我さんって、昔からすごくモテる方でしたけど、地味な方がタイプと聞いて少しはチャンスあるかなって思ったけど、やっぱり私ではダメですよね。。
せっかくだから教えてください。なぜ雨夜さん、しかも男性がパートナーなんですか?
久我さんはノーマルだと聞いてましたけど、雨夜さんに何か変なことをされたのでしょうか?あ、ごめんなさい、失礼でした。。雨夜さんのどこが魅力と感じるのでしょうか?」
またこの質問か。どこが魅力って、全部に決まっているだろう。しかも他人に説明なんて無理だし、教えたくもない。
「石田さん、その質問には上手く回答できない。雨夜でないと俺はダメなんだ。それで分かってくれるかな」
「そうですか。。私もそんな風にその人でないとダメだと思う人に出会いたいけど、何でうまく行かないのかな。。すみません、海外だし、久我さんと2人きりなので、変なテンションになってしまいました。忘れてください。
でも一つだけ教えてください。久我さんみたいな素敵な方、子供は欲しくないんですか?普通に結婚したら、素敵なお子さんもできて、さらに完璧な人生になると思うんですけど。雨夜さんと、その、別れることがあれば、また普通の幸せな人生に戻るつもりなんでしょうか?」
またか。正直、結婚する前も結婚後も、結婚しなくて良いのであなたの子供を産みたいっていう女性に何度か詰め寄られた。
全くそんな気はないし、そんなことしたらユウリが離れていくのは目に見えている。子供好きのユウリだから、俺が隠し子なんて作ったら、自分から身を引くに決まっているだろ。
子供がいたら楽しい、幸せっていうのは想像がつく。でもそれは、ユウリとは不可能で、自分に何度も何度も問いかけて俺はユウリとの人生を望んだ。
だから全く後悔していない。
むしろ、ユウリが他の女性と結婚できる機会を知っていながら、自分の欲望のままそのチャンスを与えず、結婚まで漕ぎつけたんだ。
ユウリは俺といて幸せだというけど、今だに彼の未来の幸せを奪ったのが俺ではないかと、自分を責める時がある。
「石田さん、俺は子供は欲しくないよ。雨夜が欲しいんだ。彼とでなければ誰とも結婚しないし、子供も家族もいらない」
石田さんはわずかに肩を落とし、フランス周遊お気を付けてと席を立った。
重い気持ちを抱えて、ホテルに戻った。パッキングはユウリがまとめやすくしていたので、すぐに完了した。
こんな気持ちでノートを読むのも申し訳ないと思ったが、スーツケースにしまい忘れたくないので、少し迷ったが読むことにした。
____________
フランス出張 14日目
久我へ
今日あたり、企画資料を部長提出している頃かな。
新しい企画とか商品とか、その先に使う人の気持ちや生活に溶け込むこと想像するのって楽しいな。
久我も、仕事の先の生活が豊かになればと営業を選んだと言ってたけど、その気持ち、今頃わかった気がする。いつも気づかせてくれて、ありがとな。
出張半ばで疲れていないか?久我は完璧を装うのが上手いから、そろそろ限界なんじゃないか?
もういいから、いつもの素のカッコ悪い久我に戻るんだぞ。
契約順調だったら、そろそろフランス周遊だよな。
その時、羽目を外して好きなことするんだぞ。
たまに思うんだ。久我は俺と結婚したことで、俺の未来を奪ったんじゃないかって悩んでいないかって。旅先だと、1人でネガティブになったりしてないか心配だよ。お前意外とネガティヴだしな。
俺さ、子供好きだし普通に結婚できたら、妹みたいな普通の未来があるのかもって独身のころ思ってた。
でも違うんだよな。普通って人それぞれ違って、結婚しても子供いない夫婦もいれば、好きで結婚して別れることもある。
未来なんて、いくら考えても分からないことだらけだし、結局自分たちで作っていくものなんだよ。
前も言ったけど、俺は久我を愛しているし、この気持ちは絶対なんだ。だから、未来に確実に手に入れられないものなんて、本当にどうでもいい。
未来に久我、そう、エイジがいたら、本当に何もいらない。だから変なこと考えないで、フランスの仕事を頑張れよな。
帰ってくる頃はGWでさっそく3連休だから、2人でゆっくりしよう。
ユウリ
____________
気づくと俺は涙を流していた。
ユウリって、こんなに離れてても俺の気持ち、何でわかるんだろう。
俺が、ユウリの未来を奪ったこと、そんな気持ちで受け止めていたんだ。
泣き疲れて、そのまま寝てしまった。
気づくと深夜12時を回っており、ホテルからの夜景は月明かりが綺麗に街を照らしていた。
日本はまだ朝の7時頃。気づけば俺はユウリに電話していた。
「ん、もしもしエイジ?おはよ。。え、何?どうした?泣いてるの?お腹痛いのか?、、、ん?会いたい。ふはは!当たり前だろ、俺も会いたい!」
ユウリはしばらく俺の泣きべその話をウンウンと聞いてくれて、「泣き虫め、可愛いな。よしよし」と笑った。
そしておもむろに言った。
「エイジ、大丈夫だよ。俺いつも一緒だって言ったじゃないか。明日は気持ち切り替えてフランス周遊行ってこい!
実は俺、今度のGW前にミニ休暇取ることにしたんだ。少しでもいいから、お前と居たくて。
帰国の2日前にフランスに行っていい?最終便でそっちに向かうよ。それでさ、少しフランス楽しんで、一緒に日本に帰ろう」
ええー、ユウリお前って奴は、、いつも不意打ちして、ずるい。。俺は急激に元気になった。
「じゃ、追加で連休明けの2日も休もうよ、出張報告は金曜日でないと部長も出社しないしさ。ユウリも休み申請しておいて!」
「おう」とユウリは笑いながら答えた。
あと1週間でユウリに会えると思うと、残りの日程で業務を全て完璧に終わらせてやるというエネルギーが湧いてきた。
翌朝は身体も心も軽く、俺はフランス周遊に旅立った。
第ニ章 未来の希望
<雨夜の最善;東京の空の下>
「雨夜さん、良い企画書だわ。当社の定番商品とコラボする商品の企画、これで行きましょう。頑張ったわね」大田部長がにっこり笑った。
今回の企画は、性別を問わず、定番商品を愛用する顧客層をターゲットに、日常に寄り添う基礎化粧品の企画商品だ。
花井さんに尽力頂き、基礎化粧品をAvion(飛行機のフランス語)と言う名称で商品化するプロジェクトが採用された。
宣伝などは花井さんが担当し、男女2人のモデルを使った広告とSNSの活用で、今後推進していく予定だ。
GWの連休明けから、実際に商品開発、採算について検討と、面倒で大変なことが山積みだが、一旦プロジェクト決定とのことで、俺は肩の荷が降りた気がした。
「雨夜さん、GW前後は休暇取ったのよね?しばらく忙しくて残業も36協定の時間外も超えそうだから、仕事から離れてゆっくりしてきなさい。久我さんとフランスで合流するのかしら?」
イタズラっぽく大田部長が言った。
「はい。おかげさまで企画も無事採用されましたし、考えたら久我と海外でゆっくり過ごすこともなかったので、明日から10日間の休暇を頂きます。
久我のフランス契約も順調と聞きましたし、せっかくの機会ですので」
「今夜の便で立つの?荷物は大丈夫?残りの仕事や引継ぎは最低限で良いので、飛行機に間に合うよう早く上がりなさいね」
大田部長は全て察したかのように、俺をフランスに送り出してくれた。
服などは現地調達するので、荷物は最低限で良いと久我に言われた。俺は足取り軽く、カバン一つで羽田空港へ向かった。
空港の搭乗ゲートの大きな窓から東京の夜空が見える。この空はフランスに繋がっている。
大きな丸い月が俺の気持ちを現すかのように、キラキラ光り輝いて見えた。
<久我の想い;パリの空の下>
出張も半ば、本社の法務部から国際的な契約に詳しい石田が合流した。石田は堅い法務の仕事のイメージ通り、地味な紺のスーツを着ることが多く、髪も一つにまとめている落ち着いた女性だ。
フランスでの契約は久我が獲得し、詳細は石田が現地調整する手順だ。
久我はフランスのペルノ社との事後処理を石田に任せ、当初の計画にあったフランス各地の挨拶回りで5日間パリを離れることとなった。
ホテルは明日一旦引き払う。離れる前日の夜、石田とディナーを食べながら契約の最終確認を行う。
「しかし、久我さんはさすがですね。大手のペルノ社との契約を勝ち取るなんて。契約内容も事前に連携頂いてましたので、資料作成が早くできて助かりました。
明日からのフランス周遊、お一人で行かれるんですか?私の契約は2日もあれば終わるので、よかったら3日目からフランス周遊に合流しても良いですか?」
何となく女性の甘い眼差しを感じて、期待を持たせないように手短に答えた。
「ごめん、フランスの知人と2日目から合流するんだ。石田さんは早めに仕事終わったら、出張期間は好きに過ごして良いと思うよ。せっかくのパリだし、観光を楽しんで」
石田の瞳から僅かな希望が消えた気がした。
そろそろ会計して、ホテルの荷物まとめるか。
「久我さんって、昔からすごくモテる方でしたけど、地味な方がタイプと聞いて少しはチャンスあるかなって思ったけど、やっぱり私ではダメですよね。。
せっかくだから教えてください。なぜ雨夜さん、しかも男性がパートナーなんですか?
久我さんはノーマルだと聞いてましたけど、雨夜さんに何か変なことをされたのでしょうか?あ、ごめんなさい、失礼でした。。雨夜さんのどこが魅力と感じるのでしょうか?」
またこの質問か。どこが魅力って、全部に決まっているだろう。しかも他人に説明なんて無理だし、教えたくもない。
「石田さん、その質問には上手く回答できない。雨夜でないと俺はダメなんだ。それで分かってくれるかな」
「そうですか。。私もそんな風にその人でないとダメだと思う人に出会いたいけど、何でうまく行かないのかな。。すみません、海外だし、久我さんと2人きりなので、変なテンションになってしまいました。忘れてください。
でも一つだけ教えてください。久我さんみたいな素敵な方、子供は欲しくないんですか?普通に結婚したら、素敵なお子さんもできて、さらに完璧な人生になると思うんですけど。雨夜さんと、その、別れることがあれば、また普通の幸せな人生に戻るつもりなんでしょうか?」
またか。正直、結婚する前も結婚後も、結婚しなくて良いのであなたの子供を産みたいっていう女性に何度か詰め寄られた。
全くそんな気はないし、そんなことしたらユウリが離れていくのは目に見えている。子供好きのユウリだから、俺が隠し子なんて作ったら、自分から身を引くに決まっているだろ。
子供がいたら楽しい、幸せっていうのは想像がつく。でもそれは、ユウリとは不可能で、自分に何度も何度も問いかけて俺はユウリとの人生を望んだ。
だから全く後悔していない。
むしろ、ユウリが他の女性と結婚できる機会を知っていながら、自分の欲望のままそのチャンスを与えず、結婚まで漕ぎつけたんだ。
ユウリは俺といて幸せだというけど、今だに彼の未来の幸せを奪ったのが俺ではないかと、自分を責める時がある。
「石田さん、俺は子供は欲しくないよ。雨夜が欲しいんだ。彼とでなければ誰とも結婚しないし、子供も家族もいらない」
石田さんはわずかに肩を落とし、フランス周遊お気を付けてと席を立った。
重い気持ちを抱えて、ホテルに戻った。パッキングはユウリがまとめやすくしていたので、すぐに完了した。
こんな気持ちでノートを読むのも申し訳ないと思ったが、スーツケースにしまい忘れたくないので、少し迷ったが読むことにした。
____________
フランス出張 14日目
久我へ
今日あたり、企画資料を部長提出している頃かな。
新しい企画とか商品とか、その先に使う人の気持ちや生活に溶け込むこと想像するのって楽しいな。
久我も、仕事の先の生活が豊かになればと営業を選んだと言ってたけど、その気持ち、今頃わかった気がする。いつも気づかせてくれて、ありがとな。
出張半ばで疲れていないか?久我は完璧を装うのが上手いから、そろそろ限界なんじゃないか?
もういいから、いつもの素のカッコ悪い久我に戻るんだぞ。
契約順調だったら、そろそろフランス周遊だよな。
その時、羽目を外して好きなことするんだぞ。
たまに思うんだ。久我は俺と結婚したことで、俺の未来を奪ったんじゃないかって悩んでいないかって。旅先だと、1人でネガティブになったりしてないか心配だよ。お前意外とネガティヴだしな。
俺さ、子供好きだし普通に結婚できたら、妹みたいな普通の未来があるのかもって独身のころ思ってた。
でも違うんだよな。普通って人それぞれ違って、結婚しても子供いない夫婦もいれば、好きで結婚して別れることもある。
未来なんて、いくら考えても分からないことだらけだし、結局自分たちで作っていくものなんだよ。
前も言ったけど、俺は久我を愛しているし、この気持ちは絶対なんだ。だから、未来に確実に手に入れられないものなんて、本当にどうでもいい。
未来に久我、そう、エイジがいたら、本当に何もいらない。だから変なこと考えないで、フランスの仕事を頑張れよな。
帰ってくる頃はGWでさっそく3連休だから、2人でゆっくりしよう。
ユウリ
____________
気づくと俺は涙を流していた。
ユウリって、こんなに離れてても俺の気持ち、何でわかるんだろう。
俺が、ユウリの未来を奪ったこと、そんな気持ちで受け止めていたんだ。
泣き疲れて、そのまま寝てしまった。
気づくと深夜12時を回っており、ホテルからの夜景は月明かりが綺麗に街を照らしていた。
日本はまだ朝の7時頃。気づけば俺はユウリに電話していた。
「ん、もしもしエイジ?おはよ。。え、何?どうした?泣いてるの?お腹痛いのか?、、、ん?会いたい。ふはは!当たり前だろ、俺も会いたい!」
ユウリはしばらく俺の泣きべその話をウンウンと聞いてくれて、「泣き虫め、可愛いな。よしよし」と笑った。
そしておもむろに言った。
「エイジ、大丈夫だよ。俺いつも一緒だって言ったじゃないか。明日は気持ち切り替えてフランス周遊行ってこい!
実は俺、今度のGW前にミニ休暇取ることにしたんだ。少しでもいいから、お前と居たくて。
帰国の2日前にフランスに行っていい?最終便でそっちに向かうよ。それでさ、少しフランス楽しんで、一緒に日本に帰ろう」
ええー、ユウリお前って奴は、、いつも不意打ちして、ずるい。。俺は急激に元気になった。
「じゃ、追加で連休明けの2日も休もうよ、出張報告は金曜日でないと部長も出社しないしさ。ユウリも休み申請しておいて!」
「おう」とユウリは笑いながら答えた。
あと1週間でユウリに会えると思うと、残りの日程で業務を全て完璧に終わらせてやるというエネルギーが湧いてきた。
翌朝は身体も心も軽く、俺はフランス周遊に旅立った。
第ニ章 未来の希望
<雨夜の最善;東京の空の下>
「雨夜さん、良い企画書だわ。当社の定番商品とコラボする商品の企画、これで行きましょう。頑張ったわね」大田部長がにっこり笑った。
今回の企画は、性別を問わず、定番商品を愛用する顧客層をターゲットに、日常に寄り添う基礎化粧品の企画商品だ。
花井さんに尽力頂き、基礎化粧品をAvion(飛行機のフランス語)と言う名称で商品化するプロジェクトが採用された。
宣伝などは花井さんが担当し、男女2人のモデルを使った広告とSNSの活用で、今後推進していく予定だ。
GWの連休明けから、実際に商品開発、採算について検討と、面倒で大変なことが山積みだが、一旦プロジェクト決定とのことで、俺は肩の荷が降りた気がした。
「雨夜さん、GW前後は休暇取ったのよね?しばらく忙しくて残業も36協定の時間外も超えそうだから、仕事から離れてゆっくりしてきなさい。久我さんとフランスで合流するのかしら?」
イタズラっぽく大田部長が言った。
「はい。おかげさまで企画も無事採用されましたし、考えたら久我と海外でゆっくり過ごすこともなかったので、明日から10日間の休暇を頂きます。
久我のフランス契約も順調と聞きましたし、せっかくの機会ですので」
「今夜の便で立つの?荷物は大丈夫?残りの仕事や引継ぎは最低限で良いので、飛行機に間に合うよう早く上がりなさいね」
大田部長は全て察したかのように、俺をフランスに送り出してくれた。
服などは現地調達するので、荷物は最低限で良いと久我に言われた。俺は足取り軽く、カバン一つで羽田空港へ向かった。
空港の搭乗ゲートの大きな窓から東京の夜空が見える。この空はフランスに繋がっている。
大きな丸い月が俺の気持ちを現すかのように、キラキラ光り輝いて見えた。