第2話 新しい仕事
文字数 4,400文字
第一章 新規企画
<ユウリの奔走: 仕事中>
「洋服などオシャレに興味がある男性顧客に化粧品に興味を持たせることが流行りましたが、固定客を獲得するほまでは至らない傾向にあります。
実際、メイクアップの方が売れ行きが良く、化粧品はその時に付随的に売れている傾向です。
そのため、戦略を変えるか、一時的な流行りにしない工夫が必要です」
企画部同僚の金井さんが上席に説明を始めた。
「そもそも男性に化粧品を日常的に使ってもらうメリットは何?新規顧客層の獲得が目的としても、他に考える余地はあると思うけど」
大田部長は女性視点もあり、メイクと文具のコラボの意義を図りかねているようだ。
企画メンバーは一同静かになってしまった。
「雨夜さんも男性化粧品を検討してるみたいだけど、感触はどうなの?」と大田部長は続ける。
俺はここは素直に考えを述べるのが一番と踏んで、そのままの思いを伝えた。
「私は化粧品にはまったく興味がありませんが、日常的に洗顔料や化粧水は使います。それを使い一時的に肌の調子がよくなることは感じますが、長期に渡る効果や、長く愛用されることに繋げる接点は現時点では検討段階です。
昨今、芸能人だけではなく一般の男性の変身願望からメイクアップ商品の需要が少しずつ伸びているのも事実です。
しかし、私はメイクアップではなく、オシャレに気をつかう顧客はもちろん、肌の改善を考えているあらゆる年齢層の方が手を伸ばしたくなるような、長く愛用できる基本的な化粧品の企画を考えております。
メイクアップのような一時的なものでは決してなく、日常に溶け込む、息の長い定番商品を検討できれば思います」
「なるほどね。今は企画、検討段階とは思うけど、プロジェクトとして採用するためにはもう少し裏付け資料が欲しいわ。
まずはキックオフとして、立ち上げ計画を来週までにお願いできるかしら。内容によってはプロジェクトとして上にあげてみるわ」
こんなやり取りがあったためか、俺は仮のプロジェクトリーダーになってしまった。
奥手の俺にはなんだか荷が重い。でも、俺は自分ができることを頑張らないとな。
久我もフランスで頑張ってるし、俺もここで頑張らないと。よし、と自分に気合いを入れた。
「花井さん、お待たせいたしました。本日もよろしくお願いいたします」
SNSや雑誌で引っ張りだこのメイクアップアーティストの花井さんと、1週間前の打合わせ内容の再調整のため、麻布のオフィスを訪れた。
花井さんは俺より10歳以上年上だが、肌艶が30代前半のように見える。さすが化粧品業界に身を置いているだけあって、美意識が高そうだ。
「雨夜さん、午前中のお昼時に申し訳ない。この後、雑誌の撮影があるのでこの時間しか取れなくて。ランチ食べながら打ち合わせでも良いですか?」
売れっ子だけあって分単位のスケジュールらしい。
ランチ打合わせは、隣のビルの一階にあるオシャレなカフェで始まった。
「先日ご紹介した基礎化粧品、お試しになっていかがでしたか?参考に渡した本はお役に立てました?」
花井さんは、美容を気にしているとは思えない、味付けの濃いハンバーガーとポテトをつまみながら聞いてきた。
久我を見送った日に、花井さんから「まずは化粧品を試してから打ち合わせしましょう」と言われ、俺は必死で7日間、化粧品を使いこなすよう頑張った。
渡された化粧品は3点で、洗顔クリーム、泡立つ洗顔料、化粧水だ。
洗顔クリーム以外は普段の物と大差ない。
ただ、この洗顔クリームは5分以上、顔の上でくるくると脂汚れを落とす手技が必要で、本と睨めっこしながら頑張るしかなかった。
「はい、正直言って5分以上、クリームを扱うのが大変でした。でもなんというか、肌が垢抜けてくすみが取れて白くなったような、肌の乾燥が減った気がするんですよね。今日はこの件についてご説明頂けると伺いましたが、お聞きしてもよいですか?」
花井さんは飲み込むようにランチを平らげ、では説明しますね、とコーラを片手に説明を始めた。
「僕はこう言った職業なので、デパートコスメや新作をシーズン毎に宣伝することも仕事の一つなんですよ。自分自身、メイクアップして新色も紹介しますし。
でも、それ、半分以上は仕事用なんです。今回雨夜さんに紹介したスキンケアしか僕は使いません。なぜだか分かりますか?」
「うーん、基本的なケアだからでしょうか?私も普段顔を洗って、パートナーに勧められるがまま化粧水はつけますが、その工程とさほど変わらないですよね。
つまり、必要なのはシンプルで付けすぎない、むしろ落とすことが重要ってことですか?」
花井さんはニヤリと笑い、話し方をオネエ言葉に変えた。こちらが素らしい。
「やっぱりあなた、私が見込んだだけあるわね。そうなのよ、男って肌の脂が多いから落とさないとダメなのよ。短期間でよく分かったわね。
フェノンさんから化粧品のコラボについて打診があった時、正直、協力するか迷ったのよ。
でも雨夜さんが直接いらして、男性美容への愛情とこだわり、長く使い続ける良さについての想いを聞かせてくれて決心したの。
化粧品も毎日使う物だから、本物の良さを教えて欲しいという気持ちにうたれたのかもね。この子なら協力してもいいかなって」
「いえいえ恐れ入ります。
花井さんの年齢不詳のお顔立ちは、シンプルに必要な商品だけを使い続けている結果なのですね。
以前、花井さんが弊社の定番のカメラを、二十歳から使い続けていらっしゃる記事を読みました。
メイクアップの仕事の根底はカメラと同じで、良いものを正しく長く使う事だとおっしゃっていた事が、とても印象的だったものですから」
花井さんはふふと笑い、ありがとうね、と嬉しそうに言って、さっきのデパート化粧品使ってない話はオフレコでね、とウインクした。
コラボする商品を基礎化粧品に絞れたところで、あとはどのように広報するか、顧客層にどう響くキャチフレーズを考えるか、自社に持ち帰り改めてご連絡します、とお礼を述べて帰社することにした。
「あ、雨夜さんちょっと待って。
せっかくだから紹介した基礎化粧品、使い方はこちらのサロンできちんと学んでみて。男性も結構通ってるのよ。私も定期的に習いに行ってるし。
雨夜さん、肌が綺麗だし、そんな子がきちんと手入れしたら、お爺さんになっても30代の顔立ちでいられるかもよ。日常的に長く続けたらだけどね」
花井さんは親切だな、化粧品はよく分からないが、爺さんになっても綺麗でいられたら、久我も喜んでくれるかもな、と独りごちた。
丁寧にお礼を述べ、俺は会社に向かった。今日も残業になりそうだ。早く企画書に取り掛かりたい。
そう言えば、久我と離れて1週間だな、会えるまであと2週間もある。今日も外食で済まそうかな。
あ、俺意外と1人で過ごすの平気かも。離れる時はあんなに寂しかったのにな。俺、少し強くなったかも。久我も頑張れ。
第ニ章 ホームシック
<久我の奔走: 仕事終わり>
つ、疲れた・・・。
俺はホテルに戻るなりベットに倒れ込んだ。
フランスに来て1週間経った。日々のスケジュールを計画通りこなし、練りに練った企画書でフランス語でプレゼンしたり、エレガントなディナーを笑顔でこなし、と完璧を装って過ごす一日はあっという間だ。
やはり母国語ではない言語で、一日過ごすのはかなり疲れる。
夜にユウリ充電という名のハグができない日々が続き、夜は魂が抜けたかと思うほど疲れている。
なんとかシャワーを浴びて布団に潜り込んだ。
ユウリと会話したくて携帯を手に取るが、7時間の時差もあり、流石に朝4時に起こすわけにもいかない。
ユウリのおやすみメッセージを眺め、簡単に返事をした。
『おはよう、ユーリ。こっちは夜9時。寝るのに早いけど、もうダメ眠い!寝るね。仕事は順調だよ。
昨日の文、凄くないか。帰ったらしたい事、もちろんしてあげるね。それと、あの言葉はユウリの口から直接聞かせて。会いたいな、おやすみ』
恋人ロスな日々を、俺はノートで充電する。これが夜の唯一の楽しみだ。
どんなに眠たくても、これを読むためになら1日頑張れる。ユウリ、俺のことよくわかってるな。
ノートがなかったら、仕事巻きで済ませて、10日くらいで帰国していたかもしれない。
そうだ、今日の分を読もう。
んん?栞がある。俺たちの写真だ。
携帯以外で写真見るのって久しぶりだな。
これ、初デートの時のだ。緊張してコイツ、アイス落としたんだよな。
ユウリ緊張した顔してて可愛い・・。
ほんとに、無自覚の煽り天使だ。
————————————
フランス出張 10日目
久我へ
今日は予定では、化粧品コラボの企画書の叩きができている頃。上手く作れてるかな、俺。
メイクアップアーティストの花井さんって、あ、男性だよ。まぁ聞け、嫉妬するなよ。
彼氏がお医者さんなんだって。初回打ち合わせ嬉しそうに話してて、思わず出会いを聞いてみたんだけど、ストレスの胃潰瘍で入院した時の先生なんだって。
先生の繊細な手に惚れて退院の時に告白したらOKだったそうでさ。先生も花井さんの乙女なとこ気になってたそうだよ。出会いって不思議だな。
隣駅のスーパー、チラシ見たら安かったから、久我は残業だし行ってきたんだけど、生きてるすっぽんが売ってたんだ。買ったらその場で捌いて血も持って帰れるそうだけど、可哀想だよな。つぶらな瞳なんだよ。
俺、何も買わずに帰ってきた。一瞬、コイツ鍋にして元気な久我を想像したけど、何だか2人の楽しみのために犠牲にするなんて可哀想と思って。出張前に疲れ取ってあげれなくてゴメンな。
それとさ、内緒にしてたんだけど、俺、花柄やキャラクターの柄物トイレットペーパー好きなんだよ。トイレで癒されないか?安かったから買ったと嘘ついてゴメン。ちなみに今週は花柄使ってる。
そうそう、久我の背中の左肩辺りに、ホクロが3つバランスよく並んでるの、知ってる?綺麗な正三角形でさ。エイジ・トライアングルって名づけてる。
俺、あそこにキスするの好きなんだ。それと久我が上の時にそこ触ると、お前のスイッチ入る気がする。そこ、何かあるのかな?
読んでるの朝かな、夜かな。
朝だったら行ってらっしゃい。
夜だったら、エイジ、夢でいいから俺のこと抱きしめてキスしてくれないか。俺もそうするから。
ユウリ
____________________
最後の文に興奮して、急に目が冴えた。
ユウリ、俺がいなくて泣いてるのかな?会いたいな。。
こんな1人の時間はユウリへ片想い期間はしょっちゅうだったのに、すごく自分が弱くなったと思う。
約束通りにユウリを抱き寄せ、長いキスを妄想した。そして、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
・・・・・
一方、雨夜は残業疲れで爆睡していた。
1週間の別離は意外と大丈夫だったため、後半も大丈夫と思っていた事を、雨夜は後で後悔することになる。
<ユウリの奔走: 仕事中>
「洋服などオシャレに興味がある男性顧客に化粧品に興味を持たせることが流行りましたが、固定客を獲得するほまでは至らない傾向にあります。
実際、メイクアップの方が売れ行きが良く、化粧品はその時に付随的に売れている傾向です。
そのため、戦略を変えるか、一時的な流行りにしない工夫が必要です」
企画部同僚の金井さんが上席に説明を始めた。
「そもそも男性に化粧品を日常的に使ってもらうメリットは何?新規顧客層の獲得が目的としても、他に考える余地はあると思うけど」
大田部長は女性視点もあり、メイクと文具のコラボの意義を図りかねているようだ。
企画メンバーは一同静かになってしまった。
「雨夜さんも男性化粧品を検討してるみたいだけど、感触はどうなの?」と大田部長は続ける。
俺はここは素直に考えを述べるのが一番と踏んで、そのままの思いを伝えた。
「私は化粧品にはまったく興味がありませんが、日常的に洗顔料や化粧水は使います。それを使い一時的に肌の調子がよくなることは感じますが、長期に渡る効果や、長く愛用されることに繋げる接点は現時点では検討段階です。
昨今、芸能人だけではなく一般の男性の変身願望からメイクアップ商品の需要が少しずつ伸びているのも事実です。
しかし、私はメイクアップではなく、オシャレに気をつかう顧客はもちろん、肌の改善を考えているあらゆる年齢層の方が手を伸ばしたくなるような、長く愛用できる基本的な化粧品の企画を考えております。
メイクアップのような一時的なものでは決してなく、日常に溶け込む、息の長い定番商品を検討できれば思います」
「なるほどね。今は企画、検討段階とは思うけど、プロジェクトとして採用するためにはもう少し裏付け資料が欲しいわ。
まずはキックオフとして、立ち上げ計画を来週までにお願いできるかしら。内容によってはプロジェクトとして上にあげてみるわ」
こんなやり取りがあったためか、俺は仮のプロジェクトリーダーになってしまった。
奥手の俺にはなんだか荷が重い。でも、俺は自分ができることを頑張らないとな。
久我もフランスで頑張ってるし、俺もここで頑張らないと。よし、と自分に気合いを入れた。
「花井さん、お待たせいたしました。本日もよろしくお願いいたします」
SNSや雑誌で引っ張りだこのメイクアップアーティストの花井さんと、1週間前の打合わせ内容の再調整のため、麻布のオフィスを訪れた。
花井さんは俺より10歳以上年上だが、肌艶が30代前半のように見える。さすが化粧品業界に身を置いているだけあって、美意識が高そうだ。
「雨夜さん、午前中のお昼時に申し訳ない。この後、雑誌の撮影があるのでこの時間しか取れなくて。ランチ食べながら打ち合わせでも良いですか?」
売れっ子だけあって分単位のスケジュールらしい。
ランチ打合わせは、隣のビルの一階にあるオシャレなカフェで始まった。
「先日ご紹介した基礎化粧品、お試しになっていかがでしたか?参考に渡した本はお役に立てました?」
花井さんは、美容を気にしているとは思えない、味付けの濃いハンバーガーとポテトをつまみながら聞いてきた。
久我を見送った日に、花井さんから「まずは化粧品を試してから打ち合わせしましょう」と言われ、俺は必死で7日間、化粧品を使いこなすよう頑張った。
渡された化粧品は3点で、洗顔クリーム、泡立つ洗顔料、化粧水だ。
洗顔クリーム以外は普段の物と大差ない。
ただ、この洗顔クリームは5分以上、顔の上でくるくると脂汚れを落とす手技が必要で、本と睨めっこしながら頑張るしかなかった。
「はい、正直言って5分以上、クリームを扱うのが大変でした。でもなんというか、肌が垢抜けてくすみが取れて白くなったような、肌の乾燥が減った気がするんですよね。今日はこの件についてご説明頂けると伺いましたが、お聞きしてもよいですか?」
花井さんは飲み込むようにランチを平らげ、では説明しますね、とコーラを片手に説明を始めた。
「僕はこう言った職業なので、デパートコスメや新作をシーズン毎に宣伝することも仕事の一つなんですよ。自分自身、メイクアップして新色も紹介しますし。
でも、それ、半分以上は仕事用なんです。今回雨夜さんに紹介したスキンケアしか僕は使いません。なぜだか分かりますか?」
「うーん、基本的なケアだからでしょうか?私も普段顔を洗って、パートナーに勧められるがまま化粧水はつけますが、その工程とさほど変わらないですよね。
つまり、必要なのはシンプルで付けすぎない、むしろ落とすことが重要ってことですか?」
花井さんはニヤリと笑い、話し方をオネエ言葉に変えた。こちらが素らしい。
「やっぱりあなた、私が見込んだだけあるわね。そうなのよ、男って肌の脂が多いから落とさないとダメなのよ。短期間でよく分かったわね。
フェノンさんから化粧品のコラボについて打診があった時、正直、協力するか迷ったのよ。
でも雨夜さんが直接いらして、男性美容への愛情とこだわり、長く使い続ける良さについての想いを聞かせてくれて決心したの。
化粧品も毎日使う物だから、本物の良さを教えて欲しいという気持ちにうたれたのかもね。この子なら協力してもいいかなって」
「いえいえ恐れ入ります。
花井さんの年齢不詳のお顔立ちは、シンプルに必要な商品だけを使い続けている結果なのですね。
以前、花井さんが弊社の定番のカメラを、二十歳から使い続けていらっしゃる記事を読みました。
メイクアップの仕事の根底はカメラと同じで、良いものを正しく長く使う事だとおっしゃっていた事が、とても印象的だったものですから」
花井さんはふふと笑い、ありがとうね、と嬉しそうに言って、さっきのデパート化粧品使ってない話はオフレコでね、とウインクした。
コラボする商品を基礎化粧品に絞れたところで、あとはどのように広報するか、顧客層にどう響くキャチフレーズを考えるか、自社に持ち帰り改めてご連絡します、とお礼を述べて帰社することにした。
「あ、雨夜さんちょっと待って。
せっかくだから紹介した基礎化粧品、使い方はこちらのサロンできちんと学んでみて。男性も結構通ってるのよ。私も定期的に習いに行ってるし。
雨夜さん、肌が綺麗だし、そんな子がきちんと手入れしたら、お爺さんになっても30代の顔立ちでいられるかもよ。日常的に長く続けたらだけどね」
花井さんは親切だな、化粧品はよく分からないが、爺さんになっても綺麗でいられたら、久我も喜んでくれるかもな、と独りごちた。
丁寧にお礼を述べ、俺は会社に向かった。今日も残業になりそうだ。早く企画書に取り掛かりたい。
そう言えば、久我と離れて1週間だな、会えるまであと2週間もある。今日も外食で済まそうかな。
あ、俺意外と1人で過ごすの平気かも。離れる時はあんなに寂しかったのにな。俺、少し強くなったかも。久我も頑張れ。
第ニ章 ホームシック
<久我の奔走: 仕事終わり>
つ、疲れた・・・。
俺はホテルに戻るなりベットに倒れ込んだ。
フランスに来て1週間経った。日々のスケジュールを計画通りこなし、練りに練った企画書でフランス語でプレゼンしたり、エレガントなディナーを笑顔でこなし、と完璧を装って過ごす一日はあっという間だ。
やはり母国語ではない言語で、一日過ごすのはかなり疲れる。
夜にユウリ充電という名のハグができない日々が続き、夜は魂が抜けたかと思うほど疲れている。
なんとかシャワーを浴びて布団に潜り込んだ。
ユウリと会話したくて携帯を手に取るが、7時間の時差もあり、流石に朝4時に起こすわけにもいかない。
ユウリのおやすみメッセージを眺め、簡単に返事をした。
『おはよう、ユーリ。こっちは夜9時。寝るのに早いけど、もうダメ眠い!寝るね。仕事は順調だよ。
昨日の文、凄くないか。帰ったらしたい事、もちろんしてあげるね。それと、あの言葉はユウリの口から直接聞かせて。会いたいな、おやすみ』
恋人ロスな日々を、俺はノートで充電する。これが夜の唯一の楽しみだ。
どんなに眠たくても、これを読むためになら1日頑張れる。ユウリ、俺のことよくわかってるな。
ノートがなかったら、仕事巻きで済ませて、10日くらいで帰国していたかもしれない。
そうだ、今日の分を読もう。
んん?栞がある。俺たちの写真だ。
携帯以外で写真見るのって久しぶりだな。
これ、初デートの時のだ。緊張してコイツ、アイス落としたんだよな。
ユウリ緊張した顔してて可愛い・・。
ほんとに、無自覚の煽り天使だ。
————————————
フランス出張 10日目
久我へ
今日は予定では、化粧品コラボの企画書の叩きができている頃。上手く作れてるかな、俺。
メイクアップアーティストの花井さんって、あ、男性だよ。まぁ聞け、嫉妬するなよ。
彼氏がお医者さんなんだって。初回打ち合わせ嬉しそうに話してて、思わず出会いを聞いてみたんだけど、ストレスの胃潰瘍で入院した時の先生なんだって。
先生の繊細な手に惚れて退院の時に告白したらOKだったそうでさ。先生も花井さんの乙女なとこ気になってたそうだよ。出会いって不思議だな。
隣駅のスーパー、チラシ見たら安かったから、久我は残業だし行ってきたんだけど、生きてるすっぽんが売ってたんだ。買ったらその場で捌いて血も持って帰れるそうだけど、可哀想だよな。つぶらな瞳なんだよ。
俺、何も買わずに帰ってきた。一瞬、コイツ鍋にして元気な久我を想像したけど、何だか2人の楽しみのために犠牲にするなんて可哀想と思って。出張前に疲れ取ってあげれなくてゴメンな。
それとさ、内緒にしてたんだけど、俺、花柄やキャラクターの柄物トイレットペーパー好きなんだよ。トイレで癒されないか?安かったから買ったと嘘ついてゴメン。ちなみに今週は花柄使ってる。
そうそう、久我の背中の左肩辺りに、ホクロが3つバランスよく並んでるの、知ってる?綺麗な正三角形でさ。エイジ・トライアングルって名づけてる。
俺、あそこにキスするの好きなんだ。それと久我が上の時にそこ触ると、お前のスイッチ入る気がする。そこ、何かあるのかな?
読んでるの朝かな、夜かな。
朝だったら行ってらっしゃい。
夜だったら、エイジ、夢でいいから俺のこと抱きしめてキスしてくれないか。俺もそうするから。
ユウリ
____________________
最後の文に興奮して、急に目が冴えた。
ユウリ、俺がいなくて泣いてるのかな?会いたいな。。
こんな1人の時間はユウリへ片想い期間はしょっちゅうだったのに、すごく自分が弱くなったと思う。
約束通りにユウリを抱き寄せ、長いキスを妄想した。そして、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
・・・・・
一方、雨夜は残業疲れで爆睡していた。
1週間の別離は意外と大丈夫だったため、後半も大丈夫と思っていた事を、雨夜は後で後悔することになる。