第2話 M美ちゃん

文字数 1,239文字

 札幌出身のM美ちゃんは、一浪で同い年だった。風呂無しの4畳半のアパートに住んでいて、門限すぎて帰れなくなった私をよく泊めてくれた。
 わたしは大学入学前に、珈琲館チェーンでアルバイトをしていたんだけど、バイト先で知り合った同い年の女の子(名前は忘れた)に雰囲気が似てた。彼女は、友達がネンショー行くことになって送別会するから金貸して…と、深夜に電話してくるようなしょーもない子だったけど、どこか憎めない子だった。(貸した金が返ってくることはなかった。)M美ちゃんは、借金を踏み外したりするようなことは、決してなく、むしろ経済観念は堅実だったけど、言動の端々が、そんな、しょーもない子に、そこはかとなく似ていて、おもしろい人だった。
 わたしは、当時、メンソールのタバコを吸っていたんだけど、それを見て、「これって、男が吸うと勃たなくなるっていうけど、本当かな?」と、都市伝説のような噂を口にしてみたりする人だった。

 わたしたちは、ホームパーマやヘアダイで髪をいじったり、稲荷寿司を作って食べたり、夜遅くにタバコが切れると、買いに行くのを面倒がって、シケモクしたりして一緒に過ごした。
 多くを語らなくても、何が言いたいのかお互いに理解出来て、ラクチンだった。
 けれど、同級生の女子仲間はそうではないようだった。

 ある日のこと、M美ちゃんは学食で、「昨日の夜に、パパが泊まりに来て…」と、大声で話始めた。わたしと一緒にいた(下宿が一緒だった)富山出身のCちゃんは、眉を顰めて、怖いものを見るように、M美ちゃんを見ていた。すかさず、わたしは「血のつながったパパの話だからね。」と注釈を入れたので、緊張が緩んだが、まぁ、そういう風に思われてしまう人だった。

 ある時は、血のつながったママの話をしてるんだと思って、しばらく聞いていたら、実は、バイト先の飲み屋のママの話だったりもした。

 ある時は、札幌から、入学前に付き合っていた彼氏がバイクで訪ねて来た。はるばる北海道から北関東まで訪れた旧友を泊めないわけにはいかない。けど、自分は別れたつもりなんで、一緒に寝るのは嫌だから、M美ちゃんをわたしの部屋に泊めて欲しいと言われたこともあった。

 一時期は、一軒家を二人でシェアしようと物件を探していたこともあったほど、仲良くしてたけど、M美ちゃんは、だんだん、大学に顔を出さなくなった。
 最後にあった時は、二年生の終わり頃で、地元の三十代の既婚男性が、部屋に入り浸ってて、しかも二人とも金がなくて、貧乏で笑っちゃうんだよね…と、しょーもないことを言っていた。
 そのうち飽きるだろうと思ってたんだけど、卒業を迎える頃には行方がわからなくなってしまった。

 時折、あっけらかんと何事にも動じない山のような存在だったM美ちゃんのことを思い出し、彼女がどんな人生を送っているのか、妄想を膨らませてみる。未知なる旅路に身を委ねた彼女の冒険は、今もなお続いていると良いのだけれど。


 今頃、どーしているんだろう?
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