第4話 ミカちゃんの話

文字数 999文字

 ミカちゃんは一緒に入学して、軽音学部に入部した。苗字の一部を取って、ミカちゃんと呼ばれていたが、名前は忘れた。
 新潟出身で、楽器はキーボードを暫く弾いていたが、途中から演奏はせずに、PA(コンサートの時に、ミキサーをいじって、バンド演奏のバランスを取る、重要な仕事)専門にやっていた。

 卒業アルバムには、軽音学部の他に、「モカジャバ愛好会」という三人組で掲載されている。
 この会は、食堂がある棟の一階の自動販売機で、モカジャバを買って、自販機の前のベンチに座って、ダベるというもの。正会員は三人だけだったが、準会員は結構な人数いたらしい。

 当時、50CCのスクーターが流行っていて(ヘルメット着用が義務化される前)、一年生はけっこう、乗っていた。(車はなかなか買えないので)スクーターは種類も価格も豊富で、安いものは五万円未満で手に入った。
 わたしも、軽音学部仲間のT澤くんに借りて、乗ってみたら、めちゃくちゃ快適で、手放せなくなり、近所のT越バイク店で購入した。スクーターは、脚を揃えて乗れるから、スカートでも乗れるし、セルモーターはスイッチ一つでエンジンスタートするので、ハイヒールでも乗れる。制限速度は30キロだったが、10万円超のスクーターは60キロくらいのスピードは平気で出せた。

 ミカちゃんもご多分に漏れず、スクーターに乗っていたんだけど、彼のすごいところは、新潟の実家までスクーターで里帰りしていたことだ。
 もちろん、三国峠を越えて。

 わたしも、ミカちゃんも三年生になる頃には車を購入した。気の合うわたしたちは、申し合わせたように、同じ車を買った。(もちろん中古車)
 高校時代に一世を風靡したHONDAのCITY。
 でも、残念なことに、ミカちゃんがCITY号に乗っている姿は、一度も見たことがない。わずか三週間で、ミカちゃんのCITY号は、廃車になってしまった。
 ミカちゃん曰く、「うっかり、信号のない交差点で、一時停止を見落として、そのまま侵入したら、優先道路を思いっきり走ってくる車がいて、ぶつかった。そのまま、三回転半。」
 生きてて、良かった。
 以後、ミカちゃんを紹介する時には、『三回転半の男』という修飾が付くことになった。

 ミカちゃんはもう一度車を買うことはなく、卒業まで、スクーターに乗っていた。

 卒業してから、一度も連絡してないが、今頃どうしてるかな?元気だと良いな。

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