第8話 視力回復研究所

文字数 1,678文字

 大学三年生頃から、生活スタイルが変わってきたのもあり、コンパニオンやレンタルレコードのバイトから、視力回復研究所のインストラクターのバイトを始めた。

 大学がある市のメインストリートの雑居ビルの三階にその研究所はあった。一階は、アパレルで二階はエステサロンだった。
 空気圧マッサージで、目の周りの筋肉に刺激を与えて、血行を良くすることで、視力を回復させるという研究所は、全国にチェーン展開していた。
 インストラクターの仕事は、会員さんに空気圧の機械を装着させてあげること。目の運動をおしえること。そして、定期的に視力検査をすることだった。
 怪しい理論だが、効果が出る人は居て、それなりに会員は通っていた。

 実は、研究所はフランチャイズで、わたしが勤めていた研究所のオーナーは、県庁所在地の隣の市にも研究所を持っていて、商売としてはそちらがメインらしかった。そして、オーナーの本業は、お寿司屋さんだった。(廻らないタイプの)
 研究所には、わたし以外に二人の社員がいた。わたしと同じ歳の女子で、二人は同じ高校出身で仲良しだった。無口で物静かなクールビューティのT屋さんと、明るくて華やかA津さん。二人とも美女だった。研究所の制服は、ピンク色のナース風で、美女に会いに来る会員さんも少なからず居たと思う。
 仕事は忙しくなくて、大学のレポート書いたり、編み物したり、読書したり楽勝だった。なので、給料も決して高くはなかったし、福利厚生などもほぼない状態で、社員さんは不満があるようだった。
 たまに、県庁所在地の研究所からチーフがやって来た。
 二人の社員は、このチーフのS田さんを嫌っていた。チーフは、チェーンの本部での勤務経験があり、凄腕の営業ウーマンだった。年齢はわたしより一つか二つ上。もう視力の回復を諦めて退会しようとしている会員さんに継続契約を結ばせるセールストークは魔法のようだった。
 二号店まで商売を拡大できたのはひとえにこのチーフの業だったかもしれない。

 A津さんとは合コンも一緒に企画したり、結構、打ち解けて楽しくやっていたのだが、ある日、突然、二人とも辞めると言って来なくなった。三人でやってたのに!
 辞める理由というのが、チーフは妻子あるオーナーの愛人で、不潔な関係に我慢ならんってことだった。次の職場も決めずに辞めてしまった二人がその後、どんな職に就いたのかはわからないが、二人とも実家に住んでいたから、すぐに生活に困ることはなかったんだろう。

 職場恋愛はめんどくさいが、ちょっと反応が過敏すぎるんじゃないかな?でも、高校卒業してすぐの職場が、愛人のために持たせてやった店ってのはちょっとキツかったかなぁ?

 二人とも綺麗な女性だったので、次の職場には困らなかったと思いたい。

 研究所は、わたしが一人で頑張る日もあったが、さすがに授業もあるので、もう一つの研究所から、チーフとチーフが急遽雇ったチーフの友人Y紀ちゃんが交代で来てくれた。彼女は北海道出身で、劇団で女優をやっていた。一度、舞台を見に行ったが、歌あり、踊りあり、紙吹雪ならぬアルミ箔に吹雪がキラキラと舞う舞台だった。年齢が近かったわたしたち三人は、気があって、仕事の後に一緒に食事に行ったり、楽しく付き合っていた。
 結局、わたしは卒業して県を出るまで、ここでバイトを続けた。

 Y紀ちゃんは、当時、同棲していたカレと結婚して、二人の男の子に恵まれた。どうしても欲しかった女の子が産まれた年の年賀状には、「神様は居る」と書いてあった。

 S田チーフは、結婚すると聞いてたのにわたしの卒業二年後くらいに、東京に住んでいると連絡があって、一度会った。神輿仲間と結婚を約束して、式場を予約して、招待状も送り、引出物の仕入も整った結婚式の一週間前に、突然、新郎から「結婚やめよう」と言われて破談になったと。

 酔っ払って、「本当は結婚したかった」と泣いていた。そして、「実は、オーナーの愛人だった。」と告白してくれたけど、知ってたよとは言わなかった。

 商才のある彼女は逞しく生きていると信じている。







ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み