あらすじ③
文字数 1,563文字
「おばさん!」
一人は日向FCのエース、あをい。
「おばさんって言うやつがおばさん!」
もう一人はみどり、ではなくアンブレラのコーチ。何事かと尋ねた三人に、みどりを日向FCのトップチームに昇格させる相談だと言い、みどり自身も喜んでいるという。
あからさまな揺さぶりに憤慨する三人。コーチはそれはただの嫉妬だと言い放ち、返す刀であをいにその考えは監督のものではなくあんた一人のものだと見破る。どうしてかと尋ねられたコーチは魔法使いの種明かしをする。
「トップチームにはプロになれるかも知れない子しか上げないんだ。あんたたちの年代、プロになれる子はわからないけど、なれない子ならわかる。何か飛び抜けてるより、いろんなことをまんべんなくできる子がプロになれる。だからあをい、あんたにはあたいの持てる全てをたたきこんだ。鉄、SO、レオ。あんたらには何か足りないものがあるから上がれない」
ずっと隠れて見ていたみどり。急きょミニゲームが組まれる。ただしその場にアンブレラの選手しかいないので鉄・SO・レオ対みどり・あをい・コーチ(アンブレラにはレオしかキーパーがいないため)。
コーチのいないアンブレラが作戦会議。限られた時間の中で意見をぶつけ合う。
「ナマケモノ、バカ、ビビリ。ミーたちが一番苦手な、嫌いな、したくないサッカーをする」
「そんなん練習でもやったことないこと、俺らにできるんか」
「やるんだよ! みどりを取られていいのか?」
試合開始。ボールを持ったあをいを激しく追い回す鉄、味方と息を合わせてみどりをオフサイドトラップにかけるSO、最終ラインの背後をゴールから飛び出してカバーするレオ。自分の弱点を知り尽くし、克服しようとする者たちのゾーンプレスディフェンス。
何よりみどりの様子がおかしい。いつもの鼻歌もなく、あをいとのコンビも合わない。
「守ってばっかでやっきりこくわ」
挑発するコーチ。あをいがみどりに送ったパスを飛び出してキャッチするレオ、そのままロングスロー。SOがあをいにヘディングで競り勝って落としたボールが鉄の足元に。決定的なシュートだったが、虹のような軌跡で飛んだコーチがかき出す。
あをいの蹴ったコーナーキックに飛びこむみどりとレオ。だがレオはとっさに進む方向を変え、みどりとぶつかる。ボールはどちらも触らないままゴールに転がり、レオがゴールポストに後頭部をしたたかに打ちつける音が響く。激しく動揺し、その場で叫ぶみどりをSOが抱き止め、耳元でささやきて落ち着かせる。
「そこまで!」
騒ぎを聞きつけた監督が試合を止める。そして今の得点はノーゴールだ、そのままだとみどりがポストに激突すると思ったレオがかばったのに気づいていた。そしてそうなるように上げたクロスだ、と。それを聞いてあをいにつかみかかる鉄、それを振りほどき、あをいに冷たく言い放つコーチ。
「みどりにケガしてでも点を取らせようとしたあんたと、点を取られても守ろうとしたこいつら、どっちが仲間にふさわしい?」
それを聞き、その場にうずくまって泣きわめくみどり。日向FCの緑色のピッチでサッカーがしたかった、みんな一緒に昇格できるものだとばかり思いこんでいた、と。その背中をさするコーチに監督が吐き捨てる。
「貴様、よくそんな白々しく吐けるな、あをいを死なせかけたのはどこのどいつだ?」
それを聞いたみどり以外の全員が青ざめる。
帰りがけ、レオがタンコブを冷やしながらSOに尋ねる。何と言ってみどりを落ち着かせたのか、と。
「モ・クシュラ。パパの故郷の言葉。親愛なる人、あなたは私の体を流れる血」
三人のなかで、みどりの存在が少しずつ大きくなり始めていた。