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文字数 539文字
埼玉県のとある駅。ホームには人が溢れている。いつもと同じ混雑具合。そして、いつもと同じ格好の自分。片手にあるのは何となく買ったニーチェの言葉。別に人の思想に興味があるわけじゃない。時間つぶしのための道具だ。
駅員が電車到着のアナウンスをする。電車が来る方向を見た俺は、スーツ姿で黒い革製のボストンバッグを持っている。何も変わらない。いつも通り。
しかし、『いつも通り』を噛みしめていたのも束の間だった。
横にいたサラリーマンが、ふらりとレールへと飛び降りた。瞬間、ブレーキ音が駅構内に響き渡る。
「きゃああっ!」
女性の叫び声をかわきりに、駅員や警備員が一斉に動き出す。
「急いで救急車と警察を!」
電車を待っていた人々は、スマホや携帯を弄り出す。代わりのルートを検索したり、今の事故をつぶやいたりしているのだろうか。
そんなことは俺にとってどうでもいい。やっぱり人間はくだらない生き物でしかない。
電車についた赤い飛沫。しばらく眺めていたが、自然に人の波に押し流され、遠ざかる。
無言で冷たく人々を眺めるしかできない。不幸から目をそむける、弱い人間。
人は自分で死ぬことができる。
人は、意識ある限り、自分で死ぬことを選び取れる。
自分の生死を選べること――それがくだらない人間の特権だ。
駅員が電車到着のアナウンスをする。電車が来る方向を見た俺は、スーツ姿で黒い革製のボストンバッグを持っている。何も変わらない。いつも通り。
しかし、『いつも通り』を噛みしめていたのも束の間だった。
横にいたサラリーマンが、ふらりとレールへと飛び降りた。瞬間、ブレーキ音が駅構内に響き渡る。
「きゃああっ!」
女性の叫び声をかわきりに、駅員や警備員が一斉に動き出す。
「急いで救急車と警察を!」
電車を待っていた人々は、スマホや携帯を弄り出す。代わりのルートを検索したり、今の事故をつぶやいたりしているのだろうか。
そんなことは俺にとってどうでもいい。やっぱり人間はくだらない生き物でしかない。
電車についた赤い飛沫。しばらく眺めていたが、自然に人の波に押し流され、遠ざかる。
無言で冷たく人々を眺めるしかできない。不幸から目をそむける、弱い人間。
人は自分で死ぬことができる。
人は、意識ある限り、自分で死ぬことを選び取れる。
自分の生死を選べること――それがくだらない人間の特権だ。