第三夜「ホームドラマ」

文字数 1,012文字

 おふとんに入って、ねていたはずなのに、
 ぼくはパジャマのまま、いつものさんぽ道にたっている。
 まわりは、夕がたみたいにくらくて、すこしこわい。おうちにかえりたい。

 ぼくの目のまえには、矢じるしのついた道しるべが立っていて、こう書いてある。

「パパはこっち」
「ママはあっち」

 パパとママがが、ずっとけんかしている。
 もう、いっしょにいられないんだって。
 あんなになかよしだったのに。

 あゆむ、いっしょにいようね、とママがいう。
 あゆむ、いっしょにいこうね、とパパがいう。

 あれ? いつのまにか、道しるべのよこに、ぶたさんがいる。
 ぶたさんにきいた。

「ねえ、ここはどこ? きみはだれ?」

「こんばんは。ここはあゆむ君の夢の中だよ。ぼくは、えらぶー。迷っている子とお話するのが、ぼくの役目。」
「そうなんだ。じゃあ、ぼくがまよっていること、えらぶーが決めてくれるの?」

「ううん、決めないよ。」

「ええ! ぼくひとりじゃ、きめられないよ。」
「そうかな? あゆむ君はどっちがいい?」
「どっちも、やだ。」 
「そう。じゃあ、目をつぶってごらん。」
「んーと、こうかな?」
「そうそう。で、頭の中に何かうかんだ?」

 あかちゃんのころをおもいだした。
 えーんえーんとなくと、パパもママも、しんぱいそうに、でもうれしそうに、ぼくのかおをのぞきこんで、はなしかけてくれたんだ。どうしたの? おなかがすいたの? って。

「じゃあ、決まったね。」
 えらぶーがぼくのあたまをトントンしながら言った。
「え、どういうこと?」
「もっとワガママでもいいんだよ。おやすみ。」
「まって! こんなところじゃ、ねむれないよ。」


 きがついたら、おふとんのなかにいる。
 あれ、ぼく、ねてたの? いまのはゆめ?
 えらぶーは、どこにもいない。
 しかたがないから、おふとんにはいって、めをつぶった。

 ゆめのなかで。
 パパがいう。
「パパといっしょに行こう。」
 ママがいう。
「いっしょにここにいようね。」

 ぼくは、ないた。
「やだやだやだ。ぼくはパパといっしょ。ママともいっしょ。」
えーん、えーん、えーん、えーん、えーん、えーん、
「ぜったいに、はなれない。ママとパパ、はなさない!」 
えーん、えーん、えーん、えーん、えーん、えーん、えーん、
 
いっしょうけんめい、がんばって、ないた。
 パパとママは、しんぱいそうに、でもすこし、わらいながら、ぼくのかおをのぞきこんで、なにかはなしかけてくれたんだ。
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