第一夜、そして終章「メルヒェン」

文字数 1,288文字

 パパとママといっしょに、大好きなニンジンとジャガイモとカボチャのシチューを食べているとき、家の中にオバケオオカミがあらわれた。
 オオカミはパパに向かって言った。
「おい、父ブタ。どちらかを選べ。家族三人、仲よくオレさまに食われるか、おまえだけ食われるか。」
「ど、どうか! 妻と子どもは、助けてくれ。」
 それを聞いたオオカミは、パパをがぶりと食べると、笑いながら消えてしまったんだ。

 それから三ヶ月。
 ママとお買いものから帰る途中、またオバケオオカミがあらわれて、ママに向かって言った。
「おい、母ブタ。どちらかを選べ。親子仲よくオレさまに食われるか、お前だけ食われるか。」
「ど、どうか! この子だけは助けて。お願い。」
 それを聞いたオオカミは、ママをがぶりと食べると、笑いながら消えてしまったんだ。

 それから三ヶ月。
 ぼくは一人。
森の中で食べられそうなキノコを探していると、またオバケオオカミがあらわれた。

「おい、子ブタ。どちらかを選べ。オレさまに食われて楽になるか、このまま一人で苦しんで生きていくか。」

ぼくは悲しくて悔しくて、泣きながらオオカミに言ったんだ。
「おまえは、ウソつきだ。パパを食べちゃったとき、ママとボクは助けるといったのに。ママを食べちゃったとき、ボクを助けるといったのに。結局、また食べにきたじゃないか!」
「オレさまは、また食べに来ないなんて約束はしとらん。ただ、すべてが不条理なだけだ。・・・そうだな。ではこうしよう。もし、オレさまに食われることを選んだら、一つだけ願いをかなえることを約束しよう。ウソは言わん。さあ、どうする?」
 ぼくは、フジョウリという言葉の意味はわからなかったけど、迷わず食べられる方を選んだ。
 オオカミはがぶりとボクにかみついた。
 その瞬間「もういちどあのメガネの男の子に会いたい、あの子の悩みを聞いてあげたい」と願った。

そして、ぼくは、「夢先案内ぶた」になって、人間の夢の中を旅している。


 ここは、ぼくの夢の中だ。
 大きくてけわしい山の入口に、道しるべが立っている。

 メガネをかけた男の子がその道しるべを見上げている。
ぼくは、この子を知っている。

 見つけた。

 メガネの子がふり返る。
「やあ。きみは、あの時のぶたさんだね。久しぶり。」
「うん、そうだよ・・・ずっと探していたんだ。」
「そうなの。ありがとう。また会えて、すごくうれしい。」
 その子はにっこり笑った。
 それからもう一度、道しるべを見上げる。
「ところで、あそこには何て書いてあるのかな? ボク、目が悪いからよく見えないんだ。」

 ぼくは、その子の代わりに読んであげた。
 「こう書いてあるよ。『目の手術をする』『目の手術をしない』。」

 男の子はメガネごしに、じっとぼくの顔を見た。
 ぼくは聞く。
「手術、まよってるの?」

 その子は少し考えてから、きっぱりと言った。
 「ううん。いま、決めた。」 
 「いま?」
 「そう。ボクはきみの顔をもっとちゃんと見たいから、手術するよ。」
 そう言って、ぼくの手をとった。
 ぼくらはいっしょに、道しるべの先に進んだ。

               了
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