第五夜「女の子と男の子」

文字数 1,465文字

 眠れない。毎晩、怖い夢を見る。
 そんなでも、夢の中の方が、まだまし。
 明日が来て欲しくない。いっそ、このままずっと・・・

 気がついたら私は、迷路の中にいる。
 迷路は、私の背の倍ぐらいの高さの生垣でできていて、
 全体がどのくらいの大きさなのか、どんな形をしているのかも想像できない。

 少し進むと、迷路なのに矢印のついた道しるべが立っている。
 暗くてよくわからないけど、よく見ると、こう書いてある。

「今の学校への通学路はこっち」
「新しい学校の通学路はあっち」

 私は、いじめに遭っている。
 いじめられてた友だちをかばったら、私が標的になった。いじめアルアルだ。
 友だちをかばったその日のうちに、SNSで一斉攻撃を受けた。無視していると「この子、既読スルーして逃げ回ってるよ」と書かれた。
 次の日から学校に行けなくなった。でも、そんなで負けるのが悔しいから、時々無理して登校した。登校したら、すごく疲れてまた休む。その繰り返し。

 この道しるべは、私の心の中にある二択だ。

「え?」
 なぜか私と同じように、子豚が道しるべを見上げている。
「子豚さん、ここは私の夢の中だよね? あなたは、何でここにいるの?」

「こんばんは。そう、ここは君の夢の中だよ。ぼくは、えらぶー。迷っている人とお話するのが、ぼくの役目。そして、みんなの夢の中を旅しながら、大切な人を探しているんだ。」

「そう。見つかるといいね。でもね。私が迷っていることは、あなたに話しても、なんの解決にもならないと思う。」

「そう。ぼくは話を聞いてあげるくらいしかできない。」
「だよね。私だって、どうすればいいか、わからないんだもの。」
「そうかな?」
「だってそうじゃない! 私は悪くないのにこんなことになって。絶対に負けたくない。だけど・・・このままじゃ、どうにかなっちゃう。」
 悔しい気持ちと悲しい気持ちが渦巻いている。でも、その渦も消えかかろうとしている。 

「そうだね。試しに、目をつぶってごらん。」
「夢の中だから、もう目をつぶってると思うけど・・・こうかな?」
「そう。で、頭の中に何か浮かんだ?」

 私の頭に中に現れたのは、同じクラスの男の子だ。たった一人、私に心配そうに声をかけてくれている。なのに、こないだ、「ほっといてよ!」と怒鳴ってしまった。

「じゃあ、決まったね。」
「え、どういうこと?」
「君のワガママを聞いてくれる人がいて、よかった。じゃあ、おやすみ。」
「ちょっと待って。訳わからないわ。」
 子豚は、いつのまにか迷路の中に消えていた。
 私は、歩きだす気力もなく、その場に座りこみ、そのまま・・・


 深夜にふと目が覚めた。
 さっきのは夢? せっかく眠れたのに。変な夢。
 でも、それほど怖い夢じゃなかった。
 部屋の中を見まわしても、もちろん子豚いない。
 めずらしく、また眠くなってきた・・・


 たぶん、ここも夢の中。
 私は、どこかの駅で電車を降り、運河沿いの道を歩く。五分ほどして予備校みたいな建物に入る。
 そうだ。私は、通信制の学校に転校したんだった。階段を上がり、前の学校とは比べものにならないくらいの小さな教室に入る。「おはよう」というと、みんなが笑顔で、おはようと返してくれる。

 昨日まで空いてた席に、誰か座っている。その子が顔を上げる。見覚えがあった。前の学校で私を心配してくれていた男の子。

 「え! 君? どうしてここにいるの?」
 「やあ。これからよろしくね。なんだかボクもカースト上位グループの標的にされちゃって・・・めんどくさいから、ここに移ってきちゃった。アハハ。」
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