彰の才能
文字数 2,114文字
なんだ、それなら最初からこんなにアガることもなかったろうに……という気の抜けた表情を浮かべる。
いや、しかし――結局どうであろうと鏡花を前にすれば自分はこうなっていたに違いない。それはよくわかっている。
いや、しかし――結局どうであろうと鏡花を前にすれば自分はこうなっていたに違いない。それはよくわかっている。
……居るわけがない。
そんな「解せぬ」という彰の表情がよほど可笑しかったのだろう、天才少女は顔を綻ばせると軽い笑い声を上げた。
そんな「解せぬ」という彰の表情がよほど可笑しかったのだろう、天才少女は顔を綻ばせると軽い笑い声を上げた。
と言って、そこでふと手首を返し、腕時計を確かめる。
かけたことも、いや、かけようとしたことすらない。そう言いたいのであろうと察した鏡花が先回りして人差し指をピンと立てて遮った。
そんなことの才能とか素質なんてあるのだろうか? ていうか、そもそも、自分にそんな潜在的能力があるなんて、どうやって見抜いたというのだろう。
彰がそう考えているだろうと踏んで、再び鏡花が察し良く説明する。
彰がそう考えているだろうと踏んで、再び鏡花が察し良く説明する。
確かに、彰はあれでかなり落ち着くことができた。催眠暗示の効果を直に確認できた。
どう観察したら催眠術の才能なんて見抜けるって言うんだ?
当然思い浮かぶであろう疑問を、またしても鏡花は先読みする。
当然思い浮かぶであろう疑問を、またしても鏡花は先読みする。
なるほど、そういうものなのか。しかし、説明されればされるほど、自分とは関係ない事の様な。
……という顔をしてみせると、鏡花がいきなり手を伸ばして彰の胸元に触れた。
……という顔をしてみせると、鏡花がいきなり手を伸ばして彰の胸元に触れた。
狼狽える彰に向かって微笑んでみせる鏡花。
しかし、これが落ち着いてなどいられようか。
彼女は彼の学生服の胸のボタンを器用にスルリと外して、更にその下のカッターシャツの中にまでその五本の指を潜り込ませ、胸板にペタリと手の平を押しつける。
ドクッ……ドクッ……!
高鳴る鼓動。
しかし、これが落ち着いてなどいられようか。
彼女は彼の学生服の胸のボタンを器用にスルリと外して、更にその下のカッターシャツの中にまでその五本の指を潜り込ませ、胸板にペタリと手の平を押しつける。
ドクッ……ドクッ……!
高鳴る鼓動。
催眠術を学ぶ者は、この理想的なリズムを手に入れる為に長い時間をかけてトレーニングをするのだそうだよ。しかし、キミにはそんなもの必要ない。すでにリズムは生まれた時からずっと、こうしてキミの体内にあるのだから!
彰は信じられないというように大きな口を開けた。
百歩譲ってその理屈が正しいとしても、どうやって彼女は彰に、催眠術をかけるのにおあつらえの、そんな便利な心拍が備わっていると見抜いたというのだろうか?
その疑問についても、鏡花の答えは準備されていた。
百歩譲ってその理屈が正しいとしても、どうやって彼女は彰に、催眠術をかけるのにおあつらえの、そんな便利な心拍が備わっていると見抜いたというのだろうか?
その疑問についても、鏡花の答えは準備されていた。
簡単なことだと鏡花は言ったが、とてもそうは思えない。
ある意味、催眠術の素質があるという話以上に信じ難いことだが……しかし、彼女なら――この常人離れした天才脚本家の美少女、神楽見鏡花なら、それぐらいの見極めはやってのけてしまうのかもしれない。
だが、それにしても突拍子もない話だった。
ある意味、催眠術の素質があるという話以上に信じ難いことだが……しかし、彼女なら――この常人離れした天才脚本家の美少女、神楽見鏡花なら、それぐらいの見極めはやってのけてしまうのかもしれない。
だが、それにしても突拍子もない話だった。