ひと目惚れを信じますか?
文字数 1,495文字
演劇部部長、神楽見鏡花。
彰がその姿を目撃したのは入学式の翌日に行われた新入生歓迎会でのことだった。
彰がその姿を目撃したのは入学式の翌日に行われた新入生歓迎会でのことだった。
さっぱりとした少しだけ長めのショートヘア、キリッと引き締まった顔立ち。なにより印象的なのは、眼鏡の奥の大きな瞳に湛えられた知性の光だった。
――伸び伸びしているだけの彰のようなダメ生徒も多く入学してくるのだが……「生徒の創造性を育む」彼女はまさにそんな学園の校風を代表するかのような存在だ。
一昨年、そして昨年と、自ら創作した脚本で学生演劇コンクールの全国大会に連続して優勝。学生離れしたその独特の世界観の評価は学生演劇界だけにとどまらず、現在ではプロの劇団にも戯曲を提供しているという天才少女。
一昨年、そして昨年と、自ら創作した脚本で学生演劇コンクールの全国大会に連続して優勝。学生離れしたその独特の世界観の評価は学生演劇界だけにとどまらず、現在ではプロの劇団にも戯曲を提供しているという天才少女。
利発であることは意志力と自信の溢れるその顔つきから一目でわかるのだが、そればかりではない。美少女揃いの演劇部において、役者として舞台に立っても全く見劣りしないであろう美しさ……優美な女らしいカーブを描く眉、たおやかな笑みを絶やさないその輝く唇の瑞々しさ。
ふっくらと程よく盛り上がった艶めかしいバストライン、キュッとくびれた腰から、スマートとセクシーの極限のバランスを体現した大きさのお尻の丸みを経てスラリと伸びた脚……全てが完璧だった。
新入生歓迎の舞台の幕が降りて挨拶に出てきた彼女の姿に、彰は一目で魂を奪われてしまった。
学芸会の延長程度だろうと高をくくっていた芝居の方も胸に迫る内容だった。こんなの無料で見てもいいの? というレベル。
学芸会の延長程度だろうと高をくくっていた芝居の方も胸に迫る内容だった。こんなの無料で見てもいいの? というレベル。
迫力満点のセットや照明、音響効果、そして演技を披露した部員たちも凄かったが、それらを全て統合して演出し、最高の魅力を引き出し、自ら書いた脚本の世界観を表現しきった神楽見鏡花という才能……。
それまで全くお芝居など興味のなかった彰にも、そして他の新入生たちにも、その凄さは充分以上に伝わった。
満場のスタンディングオベーションの中、周りの誰よりも熱烈に拍手を送りながら、片時も鏡花から目を離さず見つめ続ける彰の胸に芽生えたのは――早々に演劇部に入部を決めていた亜優が鏡花に対して抱いている「憧れ」以上の憧れ……すなわち――恋心だった。
満場のスタンディングオベーションの中、周りの誰よりも熱烈に拍手を送りながら、片時も鏡花から目を離さず見つめ続ける彰の胸に芽生えたのは――早々に演劇部に入部を決めていた亜優が鏡花に対して抱いている「憧れ」以上の憧れ……すなわち――恋心だった。
緞帳の前でスポットライトを浴び、満場の新入生たちに向かって少しも物怖じせずに堂々と喋る鏡花の姿を眺めながら、彰はそう呟いたものだ。
しかし。
しかし。
そんなこともあって、どうも気後れしているうちに、結局は踏ん切りがつかぬまま仮入部の期間は過ぎ去り……そして、学園内でたまに鏡花を見かけると、ため息を吐いて遠くからその姿を眼で追うだけの毎日を送ることになったのだった。