ヘタレ男と桜坂
文字数 918文字
サドルからお尻を持ち上げ、水城亜優は立ちこぎで自転車をひっぱり上げる。
アスファルトで舗装された坂道は、なだらかではあったが果てしなく続いていた。
これから三年間、学園に通うために毎朝この坂を登ることになるのだ。
そう思えば誰でも憂鬱にもなろうかというものだが、彼女は違った。
頭上を覆う桜の枝から木漏れる陽光のきらめき。
薄桃色の小さな花びらを無数に舞いひらめかせる春の風が顔に心地よい。
アスファルトで舗装された坂道は、なだらかではあったが果てしなく続いていた。
これから三年間、学園に通うために毎朝この坂を登ることになるのだ。
そう思えば誰でも憂鬱にもなろうかというものだが、彼女は違った。
頭上を覆う桜の枝から木漏れる陽光のきらめき。
薄桃色の小さな花びらを無数に舞いひらめかせる春の風が顔に心地よい。
楽しそうに振り返って弾む声をかける。
風にまかれる彼女のセミロングの髪と、セーラー服の赤いリボンのなびく先には、自分の自転車のフレームにすっかり身体を預けるようにしてガックリ肩を落とし、早々に騎乗をギブアップして、うなだれたままトボトボと歩く学生服の男子の姿があった。
ヘロヘロの情けない声で返事をしたのは太田垣彰。
亜優と同じ学校出身で、そして、また同じ学園で過ごすことになった。腐れ縁というやつだろうか? いつの頃からのつきあいなのかは、もうはっきりと憶えてはいないほど昔からの幼馴染だ。
亜優と同じ学校出身で、そして、また同じ学園で過ごすことになった。腐れ縁というやつだろうか? いつの頃からのつきあいなのかは、もうはっきりと憶えてはいないほど昔からの幼馴染だ。
見ての通りの大ヘタレで、運動も勉強も駄目。
優等生だった亜優とは学力的にも大きな開きがあり、本来ならこうして一緒に通学することにはならなかったはずなのだが、色々と悩んだ末、亜優は彰がすでに決めていたのと同じ進学先を選んだ。
……といっても、その理由に彰は全く、百パー、疑念の入る余地なく関係ない。
彰は彰。ただの幼馴染であるだけで、亜優の恋人でも想い人でもない。
優等生だった亜優とは学力的にも大きな開きがあり、本来ならこうして一緒に通学することにはならなかったはずなのだが、色々と悩んだ末、亜優は彰がすでに決めていたのと同じ進学先を選んだ。
……といっても、その理由に彰は全く、百パー、疑念の入る余地なく関係ない。
彰は彰。ただの幼馴染であるだけで、亜優の恋人でも想い人でもない。
亜優は肩をすくめると、サドルに腰を下ろし、ようやく地面に足を着いた。
そう、この学園への進学を決めたのは断じてこんな世話の焼けるヘタレ男が原因ではない。彼女の憧れる人は別にいた。
そう、この学園への進学を決めたのは断じてこんな世話の焼けるヘタレ男が原因ではない。彼女の憧れる人は別にいた。