オーディションの依頼
文字数 2,433文字
そんな生活に転機が訪れたのは、ある日のことだった。
亜優を通してオーディションの依頼が来たのだ。
亜優を通してオーディションの依頼が来たのだ。
と、笑っていなす亜優。
この仕返しはいつかしてやると心にメモしておくとして。
しかし、胸が躍る。
しかし、胸が躍る。
そんなわけで、早速その日の放課後、演劇部へと向かったのだった。
演劇部の部室は舞台のある大講堂の建物の中にある。
他に普段この場所を使っている部活もないので、二階席まであるこの広大な空間を独り占めしているという贅沢な環境であったが、舞台で発声練習をしている部員たちや、講堂周りを走り込みしている新入生、そしてブルーシートを広げたロビーでは大道具のスタッフたちが次の上演に向けて巨大なセットの修理をしていたりと、所狭しという状況だった。
他に普段この場所を使っている部活もないので、二階席まであるこの広大な空間を独り占めしているという贅沢な環境であったが、舞台で発声練習をしている部員たちや、講堂周りを走り込みしている新入生、そしてブルーシートを広げたロビーでは大道具のスタッフたちが次の上演に向けて巨大なセットの修理をしていたりと、所狭しという状況だった。
一般生徒が立ち入ることのない講堂の二階の小部屋。
その中の光景にも目を奪われる。
その中の光景にも目を奪われる。
アシスタント風の女子部員が部室とは別の、講堂内二階に設けられた音響効果室へと案内してくれる。
ミキサーだかアンプだかの細かなメーターやスイッチのついた機材に囲まれたその部屋に通される。
中にいた鏡花は携帯でなにやら打ち合わせの最中のようだった。
中にいた鏡花は携帯でなにやら打ち合わせの最中のようだった。
音響効果室には、講堂ステージ側に窓がついており、そこから鏡花は舞台を見渡しながら喋っていた。
下の階にいる舞台監督か誰かとの通話だろうか?
下の階にいる舞台監督か誰かとの通話だろうか?
コンソールの空いている場所に並べられた何枚もの脚本の原稿を手に、彰にはよくわからない難しい会話を続ける鏡花だったが、携帯を耳に当てたまま突然振り向くと、ニッと目だけを優しく細めて空いている椅子を勧める。
その様は実に慣れた感じで、こういうことはしょっちゅうなのだろう。
彰が腰かけると、案内してくれたアシスタント風の女子部員は去り、鏡花と二人だけとなった。
向き合えば膝と膝がくっついてしまいそうな、お互いの体温すら感じ取れそうな近い距離。
それだけでなく、プロフェッショナルな現場特有の緊張感みたいなものに気押されて、彰を緊張が襲う。握りっぱなしの拳の中にはじっとりと汗が滲み、心臓もドキドキして来た。
そんな彼の緊張を見抜いたかのように、電話を終えた鏡花がフッと和らいだ表情を作る。
それだけでなく、プロフェッショナルな現場特有の緊張感みたいなものに気押されて、彰を緊張が襲う。握りっぱなしの拳の中にはじっとりと汗が滲み、心臓もドキドキして来た。
そんな彼の緊張を見抜いたかのように、電話を終えた鏡花がフッと和らいだ表情を作る。
そのハキハキとした言葉づかいから、どちらかというと凛々しいという形容が似合う彼女だったが、その飾り気のない微笑みの、年相応の少女らしい愛くるしさが彰の胸をズッギュゥーンと撃ち抜く。
しかも、おまけに……
しかも、おまけに……
舞台に向けていたパイプ椅子をグルリと回して彰へと向き合わせ、そこに腰を下ろす鏡花。
先ほどふと頭をよぎった通り、この狭い室内で向かい合いとなった椅子と椅子、鏡花と彰の膝頭が、彼女が深く座りなおした拍子にニアミス!
ふわっとした女の子特有の温かい気配が伝わるほどに!
先ほどふと頭をよぎった通り、この狭い室内で向かい合いとなった椅子と椅子、鏡花と彰の膝頭が、彼女が深く座りなおした拍子にニアミス!
ふわっとした女の子特有の温かい気配が伝わるほどに!
いよいよもって高まる心拍数。動悸が乱れて頭がカーッと熱くなり、真っ白となる。
……樹木ぐらいできるだろ。