第7話 囲炉裏の家、ガマさん
文字数 1,384文字
その瞬間また切り替わった。
ビュービューと風が吹く音が外から聞こえている。ガマ、横須賀さん、マリアさん、自分は小さな農家の囲炉裏に座っていた。おそらく外は吹雪なのだろう。隙間風とともに雪片が舞い込んで来る。囲炉裏にはこの家の主と思われる厳しそうなお父さんと幼い三人姉妹が座っていた。母親はいなかった。その時、自分の頭の中に幸せ一杯な誰かの想念が入り込んできた。すぐにそれはママのものだと判った。ママは囲炉裏の反対側に座っている幼い三人姉妹のうち、真ん中の次女だ。ママと目が合い、お互いににっこりする。ママはそれはそれは幸せそうに大声で笑った。ママも昔はこんなに笑う子だったんだ。ガマ、横須賀さん、マリアさんも、にこにこしていた。みんな囲炉裏の上の梁から自在鉤で吊るされた鍋の煮物を掬って食べ、やかんに入れられた日本酒をそれぞれ形の違うおちょこで飲んだ。
マリアさんが小さなママ(チーママ)に言った。
「おいしいね」
小さなママは大きな声で、特別の笑顔で答えた。
「うん!」
お父さんが優しそうな顔をして笑った。
次の瞬間、お父さんだけが消えた。少し時間が飛び、囲炉裏の火が消えていて部屋の中の空気が寒く冷たくなっていた。三人姉妹共泣きじゃくっており、ママの悲しみに満ちた気持ちが自分の頭にダイレクトに入ってくる。
ガマ、横須賀さん、マリアさんもおろおろしていた。横須賀さんが言った。
「どうしたもんか」
「何か食べるもの、ないん?」
場面は切り替わり、三人姉妹のうちママだけと、ガマ、横須賀さん、マリアさんと自分が荒地にいた。ママは少し年上になっていたが瘦せこけていて、何か桶で洗い物をしていた。
そこは荒れた木造の建物の前で、我々は寒空のもと、立ってママの洗いものを黙って見ている。
ママの両手は真っ赤になっていた。すぐに建物の中から男の怒鳴り声が聞こえた。
「飯はまだか!」
われわれはびくっとなってママの顔を見た。こわばった顔でママは
「はい、いますぐ」
と答えると前掛けで手を拭い、建物の中に走って行った。
我々は顔を見合わせた。これはママの過去を見ているのだ。薄曇りの空を見上げるとそれがそのままママの感情となって頭の中にぞろっと流れ込んできた。
両親のいない寒村で、三人姉妹がたどる苦難はいかがなものになるのか。想像することもできなかった。
もしかするとママはお客さんのことが嫌いで笑わないんじゃなくって、心の深いところにこんな大きな傷があり、あまり笑わない人になってしまったのだろうか。いつまでこんな状況だったのだろうか。
そのとき、ガマの心がすっと入ってきた。それは慈父の心だった。心から慈しみに満ちていた。こんな体験を持ったママのことを前から知っていて、だから今のママをなんとかしてあげたい、という。
自分はまたしても誤解していた。ガマは私と目が合うと言った。
「まあ、いっぱいどうぞ」
ポケットに入れた来たお銚子で、さっきの日本酒をお猪口を次ぐと私に差し出した。
「なんでこんな自分に」
自分は真っ赤になった。ここではお互いの考えが、お互いに丸見えなのだ。ガマさんの考えがわかる以上、自分の考えもガマさんにつつぬけなんだろう。だからこそ、ガマさんは自分にお酒を勧めてくれた。自分はガマさんを見た目だけで判断してガマさんの内面までは思い至らなかった。顔から火が出る思いだった。
ビュービューと風が吹く音が外から聞こえている。ガマ、横須賀さん、マリアさん、自分は小さな農家の囲炉裏に座っていた。おそらく外は吹雪なのだろう。隙間風とともに雪片が舞い込んで来る。囲炉裏にはこの家の主と思われる厳しそうなお父さんと幼い三人姉妹が座っていた。母親はいなかった。その時、自分の頭の中に幸せ一杯な誰かの想念が入り込んできた。すぐにそれはママのものだと判った。ママは囲炉裏の反対側に座っている幼い三人姉妹のうち、真ん中の次女だ。ママと目が合い、お互いににっこりする。ママはそれはそれは幸せそうに大声で笑った。ママも昔はこんなに笑う子だったんだ。ガマ、横須賀さん、マリアさんも、にこにこしていた。みんな囲炉裏の上の梁から自在鉤で吊るされた鍋の煮物を掬って食べ、やかんに入れられた日本酒をそれぞれ形の違うおちょこで飲んだ。
マリアさんが小さなママ(チーママ)に言った。
「おいしいね」
小さなママは大きな声で、特別の笑顔で答えた。
「うん!」
お父さんが優しそうな顔をして笑った。
次の瞬間、お父さんだけが消えた。少し時間が飛び、囲炉裏の火が消えていて部屋の中の空気が寒く冷たくなっていた。三人姉妹共泣きじゃくっており、ママの悲しみに満ちた気持ちが自分の頭にダイレクトに入ってくる。
ガマ、横須賀さん、マリアさんもおろおろしていた。横須賀さんが言った。
「どうしたもんか」
「何か食べるもの、ないん?」
場面は切り替わり、三人姉妹のうちママだけと、ガマ、横須賀さん、マリアさんと自分が荒地にいた。ママは少し年上になっていたが瘦せこけていて、何か桶で洗い物をしていた。
そこは荒れた木造の建物の前で、我々は寒空のもと、立ってママの洗いものを黙って見ている。
ママの両手は真っ赤になっていた。すぐに建物の中から男の怒鳴り声が聞こえた。
「飯はまだか!」
われわれはびくっとなってママの顔を見た。こわばった顔でママは
「はい、いますぐ」
と答えると前掛けで手を拭い、建物の中に走って行った。
我々は顔を見合わせた。これはママの過去を見ているのだ。薄曇りの空を見上げるとそれがそのままママの感情となって頭の中にぞろっと流れ込んできた。
両親のいない寒村で、三人姉妹がたどる苦難はいかがなものになるのか。想像することもできなかった。
もしかするとママはお客さんのことが嫌いで笑わないんじゃなくって、心の深いところにこんな大きな傷があり、あまり笑わない人になってしまったのだろうか。いつまでこんな状況だったのだろうか。
そのとき、ガマの心がすっと入ってきた。それは慈父の心だった。心から慈しみに満ちていた。こんな体験を持ったママのことを前から知っていて、だから今のママをなんとかしてあげたい、という。
自分はまたしても誤解していた。ガマは私と目が合うと言った。
「まあ、いっぱいどうぞ」
ポケットに入れた来たお銚子で、さっきの日本酒をお猪口を次ぐと私に差し出した。
「なんでこんな自分に」
自分は真っ赤になった。ここではお互いの考えが、お互いに丸見えなのだ。ガマさんの考えがわかる以上、自分の考えもガマさんにつつぬけなんだろう。だからこそ、ガマさんは自分にお酒を勧めてくれた。自分はガマさんを見た目だけで判断してガマさんの内面までは思い至らなかった。顔から火が出る思いだった。