第8話 La Vista 函館ベイ ANNEX

文字数 742文字

 急に場面が切り替わってガマさん、横須賀さん、マリアさん、ママさん、自分はホテルのリビングのソファーに座っていた。あっ。ここは函館のホテル La Vista 函館ベイ ANNEXだ。窓から街明かりが一望できる。かつて100万ドルの夜景と言われたらしい。きらきらした街の灯りの上方には函館山展望台が照らすサーチライトが見えた。その光は展望台と山の輪郭をぼおうっと照らし出し幻想的な雰囲気を醸し出していた。右下には半月が見えた。ここは去年来た部屋じゃあないか。
 「がはは」と、がまさんが笑って冷蔵庫から冷えたビールを取り出し横須賀さんのグラスに注ぐと残りを自分のグラスに入れた。
「乾杯!」
 がまさんが我々に言ってぐびり、と飲んだ。ママさんとマリアさんも冷蔵庫からビールを取り出し、お互いに注ぎ合ってにこにこしている。自分は自分の手に持ったグラスを見た。泡の残ったビールが注がれている。自分はぼんやりとして思った。なぜこんなところに。ここは自分の体験した場所だ。なぜみんないるんだろう。

 何か分かった気がした。今までのことは、それぞれの人が自分に何かわかってもらうために、追体験をしていた。それでは今度は自分の番だ。自分は何かをみんなにわかってもらいたいのか。何だか考えても分からなかった。ただ、この景色もいいけど、このホテルは函館山を望む上層階の天然温泉で有名だ。みんなに入ってもらいたい、と思う心があった。とたん、みなホテルの露天風呂にいた。女性は大きなバスタオルを体に巻き、男はタオルだけを腰にかけて露天風呂の岩でできた端に座っていた。風呂の水面には徳利とお猪口の入った木の桶がぷかぷか浮かんでいた。マリアさんが、にっこり笑ってお猪口に徳利の中のぬる燗を入れ、自分にどうぞ、と言った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

自分  自ら方向音痴になることが好き。新規開拓が好き。


マリアさん おでこの大きなスナック迷い道の店員。ちょっと聞き返すことが多い。


横須賀さん  元海上自衛隊所属の地味だが愛嬌のある女性。


ママさん スナック迷い道のチーママで、自分の若いころ付き合った人に似ている。

ガマさん スナック迷い道の常連で酔っぱらっていて大声で話す。なんとなく風貌がガマガエルに似ている。

にきび君 スナック迷い道の客でニキビが目立つ無口な若い男。

煙君 スナック迷い道の客で年中たばこを吸っている中年の男。


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み