一日目 4

文字数 671文字

 亮介は煙草に火をつけた。煙が身体に染み渡っていくようだ。一二月の冷えた風が肌に突き刺さる。


 亮介は身震いを一つした。


「ふう」


 電灯だけがわずかに光る暗い道で、目線の先にぼんやりと浮かび上がる影があった。


――人だ。


 こんな夜中に何をやっているんだろう。影は四つんばいになって地面を睨んでいた。
気になった亮介は影に声を掛けることにした。


「どうかしましたか?」


 影は驚いた顔で振り向いた。女性だ。


「あ!動かないで」


 亮介は女性の声に驚いて、その場で固まってしまった。


「コンタクト落としてしまったの」


 ああ、なるほど。状況を理解した亮介は、踏まないように気をつけながら地面に目をこらした。
女性の足下でわずかに反射する物体があった。


「あ!足下。それじゃないか?」


 女性は足を浮かせてスマートフォンの液晶画面を向けた。スマートフォンの明かりでコンタクトレンズが光った。


「あった!」


 女性はコンタクトを拾った。


 するとおもむろに口の中に入れて、コンタクトレンズの表面を唾液で洗った。そして鏡も見ずに目に入れた。


 それを見て亮介はあることを思い出した。


――あいつも同じ事をしてたっけ……。


 女性は亮介の表情を見て口を開いた。


「あ!変ですか?ハードはこれでいけるんですよ」


「いや、変じゃないよ。俺の知り合いもそうやってたから」


「そうなんですか。どうもありがとうございます」


 女性は丁寧に頭を下げた。


「いや、たまたま通りかかっただけだから」


 亮介は恐縮してしまった。


「これから時間あります?」


「ありますけど、何で?」


「コーヒーでも飲みません?お礼に奢りますよ」



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