序章 12

文字数 451文字

「これで思い残すことはない」


「そうか」


 三人を二人の男が遠巻きに見つめている。一人はスーツに身を包み髪の毛はオールバックに纏めていた。その顔つきは精悍で、優しい眼差しを美希とその母に向けている。もう一人もスーツ姿。こちらは全身真っ黒。黒いスーツに黒いネクタイ。靴下、靴に至るまですべて同じ色。サングラスをかけているためその表情は読めない。


「あなたには感謝していますよ。死神さん」


 死神と呼ばれた男の口がわずかに上がる。もしかしたら笑ったのかもしれない。とにかく無愛想な男だ。


「このままずっと現世を彷徨うのかと思いましたよ」


「あの世に行くのは死者の義務だ」


「死神さん、あなたはその義務を果たしたのですか?」


「……。全く。何度も言わせるな。俺のことは案内人と呼べ」


「そうでした」


 男はそう言って笑った。すでにその姿は消え始めている。最後に男は美希とその母を見た。そして満足そうに頷いた。


 男は光になった。


「俺は果たせなかった。そんな馬鹿野郎をもう生み出してはいけない……」


 案内人は誰に言うでもなく呟いた。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み