四日目 2

文字数 913文字

「どういうことだ?」


 亮介は剥れながら尋ねた。


「みんなで行った方が楽しいだろ?」


 拓也は特に気にした様子もない。五人は今、寮から車で三〇分程の距離にあるショッピングモールに向かっている。


 このモールにはかなり大型なスポーツ用品店がある。雪山に行ったらスノーボードがしたいと咲が言い出した。亮介と拓也は道具一式を持っているが、他の三人は滑るのも初めてという状態だ。


 突然ではあるが五人はここに行くことになった。


「迷惑だった?」


 沙織は特に気にした様子もなく尋ねた。


「そうなんですか?」


 逆に由香は心配そうだ。


「大丈夫、大丈夫。二人とも気にしなくていいよ」


 亮介が答えるよりも先に、間髪入れずに咲が答えた。


「拓。帰りはお前が運転しろよ?」


「だめよ。拓ちゃんは私と後ろに乗るの」


 咲が当たり前のように言う。さすがに拓也は苦笑いだ。バックミラー越しに拓也が“すまん”と手で合図する。亮介は思わず溜め息を吐いた。


 このショッピングモールは広い土地を確保するために、都心からは離れたところに建設されている。その為に交通アクセスは不便だ。そこで、拓也はレンタカーを借りることにした。朝から咲が拓也にべったりだったので、仕方がなく亮介が運転することになった。


 助手席には沙織、後部座席に咲、拓也、由香。自然、亮介は沙織と話すことが多くなった。


 たわいもない話。沙織は昨夜のことは何も聞いてこなかったし、何も話そうとはしなかった。


 亮介にとってもそれは有り難かった。認めたくない事実を認めざるを得なくなった自分が悔しかったし、情けなかった。


 由香はそんな二人の会話が気になって仕様がなく、常に聞き耳をたてていたが、亮介は当然のように気がつかなかった。


「ボードが初めてならレンタルでも良かったんじゃないか?」


「そうね。私もそう思うわ」


 さらりと沙織は言う。


「じゃあ、何で?」


「会いたかったから……」


 沙織の言葉に由香の心臓はドキリと音を立てた。いや、チクリというべきか。沙織の心は亮介を求めている。自分と同様の気持ちを抱いている。


「あたしには時間がない……」


 由香は自らに言い聞かせるように呟いた。その言葉は車のエンジン音に掻き消されてしまった。



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