第1話

文字数 675文字

 十一月十六日(日)

 解散会の翌日、小夜子は朝から校舎を回り、生徒たちから聞き込みをした。それは高野内の推理を裏付けるものであり、証拠はすべて揃った。
 それから病院へ寄り道すると、ある人物の家を訪れた。松葉杖の高野内も一緒だ。小夜子は一人で向かうつもりだったが、どうしてもついてくると言って聞かず、担当の医師から無理矢理外出許可をもらい、昼食後にタクシーで乗り付けた次第である。
 震える指でインターホンを鳴らすと、しばらくして返事が聞こえ、来訪の旨を伝える。やがて扉が開き、中へと招き入れられた。
 ふたりは居間に通されると、促されるままにソファーに身を沈め、緊張の色を浮かべた。やがてその人物はお茶とあられをテーブルに乗せ、反対側のソファーに腰を下ろす。
 張り詰めた重い空気が漂い、壁かけ時計の振り子の揺れる音が、いたずらに胸の深いところを刺激する。
 沈黙を破ったのは高野内だった。
「突然押しかけてすみません。今日はお一人ですか?」
 その人物は「そうです」とゆっくりと頷いた。私たちが訪ねてきた理由を本当に理解しているのだろうかという思いが小夜子の頭を支配する。
 高野内を見ると、委縮しているのか、さっきから微動だにせず、両手を力強く絡めていた。強引についてきた割には、頼りないことこの上ない。内心、やっぱり一人で来ればよかったと思わないでもないが、今さら後悔したところでどうにもならなかった。 
 小夜子は意を決して口火を切る。
「単刀直入に言います。今回の金代台高等学校における一連の事件の真犯人は、あなたですね。代々木先生」
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