第6話

文字数 876文字

「岩清水が殺された? あのオタク野郎が?」
 高野内は思わず声を張り上げた。周りの患者たちが一斉にふたりの方を向く。たまらず彼の口を抑える小夜子。
「病室なんだから静かにしなさいよ、みっともない。……それにまだ決まったわけじゃないのよ。今も話した通り、警察は自殺の面で捜査しているって」
「でも、もし自殺で片付いた日には、お前の出番が無くなるな」
「むしろそっちの方が有難いわよ。正直、これ以上美術部の仲間を疑いたくないし」
「でも、本心は自殺では無いと思っているんだろう? ちゃんと顔に書いてあるぞ」
「そうね、私には彼が自殺したなんて信じられないわ。どっちにしても事件を解決するまでは放ってはおけない。状況からみても事故ってことはありえないし――」
 小夜子は高野内を睨みつける。伊佐木加奈子の事故説を主張したことが、頭から離れない為だ。
「しかし気になるな。トイレは中から鍵が掛かっていたんだろう? だとすれば完全な密室という事になるな。もしこれが殺人だとすれば、犯人はどうやって鍵を閉めたんだろう?」
「そうね。私も気になるから、明日にでも旧校舎のトイレを調べてみるわ」
「それは無理じゃないか? きっと立ち入り禁止になっていて、中には入れないと思うぜ」
「それでも一応行ってみるわ」
「気をつけろよ。花子さんがいるかもしれないし」
「学校の怪談じゃないんだから、花子さんなんている訳ないでしょう」そこで小夜子は不意に美紀との会話を思い出した。「……あっ! そういえばミステリーとサスペンスの違いって判る?」
「そんな事も知らないのか? 簡単だよ、ミステリーは小説でサスペンスは劇場だ」
「劇場って、まさか火曜日とか言わないでしょうね」
「なんだ、知ってるじゃないか」
「あなたに訊いて損したわ」小夜子は頭を抱える。
「とにかくトイレの捜査、頑張れよ。かぐや姫バストのお嬢さん」
 小夜子は包帯の巻かれた足を蹴り上げると、悲鳴を上げながらのたうち回る高野内を尻目に病室を後にした。また入院が伸びるかもしれないが、そんな事はどうでもよかった……。
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