文字数 1,042文字

天気がいい朝で、塵が少ない雨あがりの日差しが指していた。日差しを受けてフィットのブラックアメジストパールは綺麗に反射しており、車内の細かいガラスはダイヤモンドのように輝いていた。
改めて駐車場に戻ってから大きな穴が空いたリアガラスを見てみると、哲郎はしっかりと怒りが込み上がってくるのを感じた。なんで深夜に起こされて、わざわざこんなことをされに行かないといけなかったのかを考えながら、手袋をはめた手でリアハッチを開けた。そして、ガラスが散らばった収納床を上げて、車載工具の黒い袋を取り出した。
哲郎は黒い袋からL字のレンチを取り出すと、リアハッチを閉め、穴のまわりに残ったリアガラスを車内へ突いて落とした。そうしないと警察に注意を受けるとネットに書いてあったからだ。哲郎は、なんだか日頃虐待してくる老人のうんこを世話しているような気分になってきていた。
ガラスを落とし終わると、長辺の両端を切って長くした透明の袋をガムテープで貼って、なくなったガラス部分を覆った。そして、車内のガラスを小さい箒でちりとりで集めていった。すると、矢島がリアガラスに投げつけたシャックルを見つけた。哲郎はそのシャックルをどこかに投げつけたかったが、その気持ちを抑えてシャックルをゴミ袋に入れた。
掃除が終わると、哲郎はスマホでフィットのリアガラスを修理するのに、いくらかかるのか調べた。おおむね6万円が相場だった。哲郎は思ったより安いと思ったが、急な出費にしては高すぎると感じた。矢島がヤフオクでパーツを調べていたのを思い出し、フィットのリアハッチがいくらか見てみると、送料を合わせても1万5千円くらいだった。だが、買ったところで自分で直せるはずもないので、買わなかった。哲郎は、ふと矢島のビートのメーターが3万円だったのを思い出して、また腹が立ってきた。
虐待老人のうんこを片付け終わると、哲郎はアメスピに火をつけた。なにかの作業を終えて吸う煙草は、全喫煙者へのご褒美だと哲郎は思った。だが、本来必要ではない作業であるうえに、4万の貯金では足りない出費を迫られる気分は良いものではなかった。
器物破損で矢島を訴えても良いが、自分が当て逃げの幇助をしているのがバレると思うと、哲郎は警察に通報するのが億劫に感じた。この埋め合わせはいつか必ずさせたいと思う反面、また矢島に連絡を取るのは面倒だとも思った。
とにかく、フィットをこのままの状態にしておくのは良くないというのは間違いなかった。
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