文字数 1,191文字

Googleマップに目的地を設定して、哲郎は矢島の元へ向かった。到着予定時刻は5時12分。哲郎は始発の次の電車が走る前には矢島の車を牽引して、さっさと現場から離れたほうがいいなと考えた。
赤信号で停まっている最中、哲郎はアメスピを一本取り出して火をつけた。そして、助手席に置いてある黄色いビニール袋からモンスターエナジーを左手で取り出し、片手でタブを開けた。一口流し込むと、ドリンクホルダーに缶を置き、矢継ぎ早にアメスピをくわえて吸い込んだ。
青信号になり発進した。哲郎は鼻から抜けるエナジードリンクと煙草のにおいに、ニコチンとカフェインが身体を巡っていくような感じを覚えた。
濡れたアスファルトに街灯や信号が反射している。家を出た頃と比べれば、降ってくる雨の勢いは弱くなってきていた。
哲郎はフロントウィンドウの助手席側に、歩道を走っている新聞配達の原付が目に入った。配達員が新聞をシャッターの郵便受けに落とし込み、そのまま歩道を走ってブレーキランプがまた点いた。そして、新聞をポストに入れて、角を左折して視界から消えた。
哲郎はふと矢島の共犯になることについて考えをめぐらせた。冷静に考えれば、なぜリスクをとってまで矢島を助ける必要があるのだろう? 友達だからか? それに見合うリターンは、今までスリルからくるアドレナリンラッシュ以外になかったのに。
哲郎はハザードボタンを押して、歩道に寄せて停車した。ドリンクホルダーのモンスターエナジーを持つとまだ重い。一口飲むと、口の中に広がるモンスターエナジーの味を楽しんだ。アメスピをくわえて、ゆっくり吸い込み、煙を吐いた。そして、モンスターエナジーを二口流し込んだ。時計を見ると4時53分。空は少しずつ青みがかってきている。このまま運転すれば到着予定時刻より少し早く到着するだろう。だが、哲郎にはもうどうでもよかった。高校のころから築き上げた友情が判断を狂わせていると思えてきた。これから自分が歳をとっていき、いずれ女と結婚して、老いていくことを考えれば、しばらく矢島との距離を置いた方がいいのではないだろうか。もし、それによって友情が壊れるなら、そこまでの友情だったということで終わらせるべきではないか?
哲郎はアメスピを根元まで吸うと、灰皿に火種を押し付けて消した。そして、モンスターエナジーを飲み干した。今自分が考えたことを矢島に直接伝えることはないが、行動に移すのも面倒だ。なんなら、自分が到着した頃には矢島が警察に捕まっていて、到着しても居なかったらいいのに、という考えさえ浮かんできていた。
助手席に目をやると黄色いビニール袋の間から牽引ロープが見えた。哲郎は牽引ロープに払った2529円のことを思い出した。
−−とりあえず金は、もらわな。
哲郎はハザードを消して、右ウィンカーを出し、発進した。

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