第24話

文字数 1,077文字

「納屋に車が隠してある。お前が運転しろ。俺は追撃してくる奴を撃退する」
「わかりました」
リセもハンカチで口を押さえて答えたので、くぐもった声になった。
ダリウスが突然止まり、振り返った。

「だから、スリングショットと、他の武器玉をよこせ」
「え・・?」
これは緊急事態だ。
リセは判断した。彼に任せた方が確実だ。ダリウスのほうが、飛距離が出る。
車で逃げるのなら、追手を撒くために煙幕玉と閃光弾を使うのが有効だ。

「よしっ・・開けるぞ」
ギシギシと板戸をきしませて、開けた時だった。
納屋の大きな入り口が、開けられていて、夕方の傾いた太陽光線が、納屋の中奥まで届いている。
まぶしくて、手で顔に影をつくったリセにも、入り口に立っている、痩身の男のシルエットがくっきりと見えた。

その影は・・深々とお辞儀をした。
「ダリウス様、お疲れさまでございます」
「あーーーやっぱりな」
ダリウスは気が抜けたように、ストンとわらの上に座り込んだ。

「音だけはやたら派手だったが、攻撃してこないから、おかしいと思った」
「はい、訓練いや・・試験でしたので」
リセは、板戸のそばで立ちすくんで、その影の人物、ダリウスの執事を見つめていた。

執事は眼鏡の縁に指をやり、リセの方に視線をやった。
「リセ・ガルニエ、あなたは不合格です。
ダリウス様の護衛任務をするのは、実力不足と判定いたします」

不合格って・・何の話・・?
あっけにとられて、リセは口に手を当てたまま・・不合格って?と頭の中で検索をしていた。

執事が続けた。
「ダリウス様があなたを、専属護衛にしたいとご希望だったので、抜き打ちの試験をさせていただきました。
現在の実力では、ダリウス様の足手まといになるか、負担になります」

「専属・・護衛って・・」
リセはダリウスを見た。
「いやぁ、スリングショットでスカンク玉とか、煙幕玉とか打ってみたかったんだけどな」
ダリウスは両肩をすくめて、本当に残念というジェスチャーをした。

「はい、ダリウス様に事前にお知らせすると・・」
執事は額にしわを寄せて、渋い顔をすると、コホンと咳払いをした。
「すぐにお遊びになるのは、こちらとしても想定内ですので。
そうなると試験にはならなくなります。ですから、抜き打ちとさせていただきました」

「はぁ、お前も食えないやつだよな」
ダリウスはわらの束をつかんで、不満げに執事に投げつけた。

「はい、護衛はダリウス様の命を預かる、重要な仕事ですから」
執事は軽く頭を下げ、次に腕時計を確認した。
「リセ、勤務はこれで終了です。お疲れさまでした」

リセは・・頭を下げたように見えたが・・そのまま倒れ込んでしまった。
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