第2話

文字数 1,276文字

黒髪の小柄で華奢な魔女だった。
貧血ぎみの白い肌と、瞳は薄い紫だが、少し緑が入っている。
定番の老女ではなく、まだ若葉が芽吹く前の小枝のような少女に見えた。
はつらつとは程遠い・・暗い印象だった。

「こんにちは、先生」
「こちらに座りなさい」
補佐官の口調が教師になった。
「はい、失礼します」
魔女は足音を立てずに、補佐官の正面の椅子に座った。

補佐官は両手をあごの下で組んで、改めて魔女を観察した。
こちらを見るまっすぐな視線、その小柄で華奢な容姿に似合わず、強い意志と落ち着きがその瞳には宿っている。

漆黒の髪を後ろで束ねて、魔女の正装である黒いローブを着用している。
黒い影の中から、青白い顔と首が浮き出てみえる。
あいかわらず・・変わってないな・・補佐官は微笑んだ。

「よく来てくれたね、リセ、元気だったかい?」
「はい、先生・・御無沙汰しております」
リセは丁寧に答えた。
「体の調子はどうかね・・相変わらずかな?」

リセは少しうつむいて、困ったように唇をかんだ。
「はい・・みなさんにご迷惑をおかけするので、今月でここを退職する予定なのです・・」
「そうか・・君のように優秀な人材は・・・残念だが」

「お仕事にも、支障がでてしまうので・・」
補佐官とリセは、それぞれの思いがあり、黙り込んだ。

しばらくして、補佐官が口を開いた。
「確か君は、護衛の仕事をしていた経験があったな」
補佐官が履歴書に目をやり、確認すると
「はい、要人の奥様やお嬢様です。短期間ではありますが、やっていました。」

補佐官が続けた。
「そうか。経験があるなら問題はないだろう。
明日から1週間だけ、ある方の護衛をやってもらいたい」

「1週間ですか・・」

突然の条件提示に、リセはすぐに手帳を取り出して、何か確認している。
「1週間なら・・ギリギリなんとか・・・です。
予定が狂う事もありますが・・」

含みを持たせて、小さな声で答えた。

「君の<魔女ホルモンの問題>もあるからな。
この仕事を引き受けてくれれば、特別勤務手当を割り増しにするが。
それに君の、ここでの最後の仕事になるし」

補佐官は微笑みながら、大きくうなずいた。
リセはうつむき加減になり、ふっと息を吐いた。
手持ちの金は厳しい。
仕事を辞めて、これからの生活を考えると、少しでも増額してくれるのはありがたい。

「実は警護対象であるそのお方も、1週間後に出国する予定なのだ」
補佐官は最後の一押しをした。

先生を困らせることはしたくないな・・
リセは、同意のうなずきをした。
「わかりました。護衛対象のお方の資料を、見せていただけますか?」

補佐官は秘書を呼んだ。
「むこうで、エグモント様の資料を渡してやってくれ」
「それでは、こちらにどうぞ」
子鬼娘はドアから首だけ出して、リセが立ち上がるのを待っている。

補佐官は<話は終了だ>というように、書類のはさんである紙ばさみを閉じた。
「ありがとうございました」
リセは丁寧に頭をさげ、秘書の後についていった。

グギィイイイーー
重い扉がきしんで閉まると同時に、補佐官はため息をついた。

<彼女に捨て駒になってもらうのは心苦しいが・・・時間稼ぎだ。仕方がない>
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