ときにはミルクをかきまぜて

文字数 1,249文字

 ロイヤルミルクティーをロイミティーと略して通じる世代はいつまでだろう。
 作るたびに思い浮かぶ疑問を、今日も思いながらミルクパンの中で徐々にあたたまってゆく牛乳を、手を抜かず気も抜かずにゆっくりとかき混ぜている。

 時に、突然思い立ちロイヤルミルクティーを作ってしまう。休日の午後か夜が多い。
 ロイヤルミルクティーとは優雅な名前だけれど、作る過程は牛乳の膜が張らぬようくるりくるりと手を動かし、沸騰間際のタイミングで火を止めるため、ミルクパンをずっと緊張感を持ち見張っている必要がある。しかもロイヤル=王室、とイギリス感漂わせながらも完全なる和製英語で日本発祥の名称であるとのこと。イギリスでは通じない名称。
 そのロイヤルミルクティー。ミルクティーとの違いはミルクと紅茶の比率らしい。調べてみると、ミルクが五割以上であることが一応の定義のようだ。
 私が作るときは、ほぼミルクでつくる。ほんの少しのお湯に茶葉を淹れ香りが立ってから、そこへミルクを多量に投入しゆっくりあたためてゆく。八~九割はミルク。
 我ながら、なかなか美味しく出来上がる。まあ簡単なのかもしれない。が、手間はかかる。それでも、ひと口飲めばコクもまろやかさも「ロイヤル感」はある。だからこそ突然思い立っては作ってしまうのだ。

 紅茶の作り方に関しては、本場のイギリスでも議論が行われるほど多数の淹れ方があるそうだ。その議論に加わりたいとも思わないし、マイスターになるわけでもないので、淹れ方は完全なる我流である。好みであればいいのだ。結局は。ズボラな性格である。自他ともに認めるミルクティー好きであっても、ただ好きだというだけの人間で、種類や淹れ方に詳しい人間ではない。自分で美味しいと思えればそれでいい。

 そして不思議なことにミルクティーならば、どのメーカーのものでも、どの店のものでも、私はたいてい美味しく飲めるのである。しかも、熱くても冷たくてもぬるくても、たいてい美味しく飲める。それって他の飲み物では見当たらない。
 からだに合っている飲み物なのだ。だからこんなにも固執しているのだと、そう思っている。そのため逆に淹れ方には固執しないのだと。
 ティーバッグで抽出して牛乳を入れたものでも美味しくいただくし、もちろんこうして牛乳を沸かしてかき混ぜて茶葉で淹れることもある。茶葉を使うと、香りも美味しさもより良くなる気がするけれど、なにより気分も上がる。
 ずっとミルクパンを見張っているのも、鍋や茶こしを洗うのも手間ではあるけれど、てまひまをかけるのは気分を上げるためだとも言える。

 そろそろ色と香りが良いあんばいになってきた。沸騰直前のタイミングで火を止める。茶こしをお気に入りの大きなマグカップへ乗せ、ミルクパンを傾ける。いい色。いかにもロイヤル感ある美味しそうな色。ミルクと茶葉の絡まった湯気が鼻腔を(くすぐ)り、飲む前から温かく幸せな気持ちになる。
 この瞬間のために私は、ときにミルクを見張ったりかきまぜたりしたくなるのかもしれない。

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