センター獲得へ

文字数 1,352文字

 どうしたのだろう。
 初見の光景に、一瞬何が起こったのか分からなかった。

 早いもので『既視感』より季節は一巡し、また冬である。例の自販機案件である。繰り返される自販機問題。
 今までは、存在自体があるかないかという案件だったミルクティー問題。いつも多種多様に何本も並ぶコーヒー軍団にセンターはもちろん上下段まで占領されながらも、その片隅にひっそりと一本佇むミルクティー。
 大丈夫、どんなに脇でも私はあなたがそこにいるのを知っている。その場所を死守すべく、微力でも着々と売り上げを伸ばしてあなたの位置を守ってみせる。CDを何枚も購入して「推し」を応援するような気持ち。私のこころの自販機攻防戦は緊張感を持って続けられていた。

 それが何ということか、いつものように昼休憩に行き自販機前に立つと、紅茶軍団が一気にセンターへと躍り出ていた。涙なしでは語れない、紅茶派の度重なる想いが結実した瞬間であった。
 と思ったが、どうやら免疫サポート系のミルクティーが発売になったらしい。健康を謳うと飲食系は強い。「免疫ケア」と書かれた可愛く丸く青いシールが貼られた新しいミルクティーが、最新自販機の中段センターに位置している。しかも二本である。双子のツートップだ。デビューしたてでいきなりのセンター。期待の新人である。ただ彼女らだけではやはり不安だったのだろう。見慣れた古株ミルクティーもしっかり彼女らをサポートするように隣に配置されていた。そのうえ古株ミルクティーの真下にももう一本、缶ミルクティーが応援に駆けつけているではないか。
 ミルクティーだけで四本のラインナップである。強く願えばいつかは叶う、と励まされた想いである。
 もちろんレモンティーもある。ストレートティー二本、無糖も二本とさらなる紅茶軍団が脇を固めている。紅茶だけで九本!
 繰り返すが、この自販機では今まで見たことのない光景である。嬉しさのあまり写真を撮った。





 何を買おうか選択肢がある。迷うという嬉しい悩みが発生し、値段に負けて八十円を選んだ私。しかも芳醇ロイヤルミルクティーとある。美味しそう。
 ご覧の通り、缶ミルクティ―には上に説明書きが乗っていて、実は缶という認識がなく購入してしまった。説明書きの後ろにペットボトルの蓋部分があると思ったのである。ほとんどがペットボトルであるし、隣のレモンティーも小さいながらペットボトルだったので当然同じかと。
 私は缶から直接飲むのが苦手である。こんなところにも選ぶ幅の狭さが露見してしまう。出てきたミルクティーが缶だったため、どうしようか迷った挙句、水筒の白湯を飲み干し(から)にしてその中へと移し替えた。
 失敗だった。
 たくさんのミルクティーに舞い上がって、缶かペットボトルかの見分けもつかなくなり、思いがけず出てきた缶に衝撃を受け、常温に戻すことを忘れキンキンに冷えた状態のまま水筒へと入れてしまったのである。水筒は大変優秀で、いつまでもキンキンのまま保冷を続けていた。冷たすぎる。
 うぅ、ホットが欲しい。

 自販機が紅茶軍団へと一新されたのは嬉しいけれど、すでに最高気温が氷点下の真冬日である。今後ホット導入を希望し、この顔ぶれを守ることができるのか。こころは揺れている。
 自販機案件の葛藤は終わりそうにない。


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