第6話

文字数 1,459文字



 現場の守衛は市の身分証明書を見せたら、なんなくゲートを通過させてくれた。
Dブロックでは、工事の再開がされているが、目的とする地点に人はいなかった。
横山も鈴木も管理棟で借りた黄色いヘルメットを被っているため、他から見ても不自然には写らないだろう。
 すでに4メートルほど掘られた現場は、南北に50メートル、東西に25メートルのプールが造られる予定になっている。
 穴の縁に立って見おろすと、工事の照明も薄暗く、不気味な雰囲気が漂っている。
 ユンボやブルドーザーを降ろす坂道から下に降りると、横山はその場で立ち止まり、地上を見上げた。
…うまくすると、掘る現場を見られずに済むかもしれないな…
 横山は再び歩きながら、地面に目を凝らし始めた。鈴木はすでに懐中電灯の明かりを点け、地面を探りながら歩いている。
…赤茶けた土だ。…粘土質の土は地下水の影響で粘り気があり、ところどころに水溜まりが見られる。
「横山さん。図面では確かこの辺ですよね。別の土は入れていないようですから、まわりの土でも被ってなければ分かるはずです」
「……」
 横山も、20年前の不発弾処理の記録を見ただけだから自信はなかった。あれば良いと言う希望的観測だけなのだ。
 20分位、めぼしい地点をしらみつぶしに探したが、これといった跡は見られなかった。
「だめなようだな。残り1発の地点に移動しよう」
 鈴木に向かって声を掛け、横山はさらに東の端へと歩み始めた。4メートルの切り立った土の壁にたどり着くと、その壁に向かって懐中電灯の光を当てた。
 鈴木が息を荒くして後ろからやってくる。横山は懐中電灯の光を当てたまま、背後の鈴木に向かって言った。
「もう1発は、この東側のへりから、ぎりぎり内側にあるはずだ。B29は北西に向かって爆撃進路をとっていたから、地中に斜めに弾道がつけられていれば、この壁に通過した痕跡が残っているはずだ」
 鈴木も懐中電灯を土壁に当て始めた。工事用のライトも弱いながら届いているので、色の変質した部分を肉眼で探し、懐中電灯のライトを当てる作業を繰り返した。
 目的の痕跡を発見するまでに、さほどの時間は掛からなかった。それは横山が立っている地点から2メートルほどの高さにあった。
 黒い土が、直径20センチほどの円形で土壁に露出している。
 横山は鈴木を呼び寄せると、足元の地表を探させた。自分は作業ズボンのポケットから方位磁針を取り出し、爆撃進路の方向を探る。
 横山は、ある方角で体の位置を止めると、そのまま後ろを振り返り、1点を見つめた。
「鈴木。…そこを探してみろ…」ライトの目印を地面に当てる。鈴木は地面に被った土を足で払い除けながら探り始めた。横山は光を徐々に自分の方に引き寄せ、鈴木の探る位置を誘導している。横山の足から2メートルの所で鈴木は動きを止めた。
「横山さん…ありましたよ。…ピッタリだ。驚いたなあ…」
「すぐに位置を測定するんだ。それから壁の痕跡との角度と高さ、方角も頼む」
 鈴木が測定し終わるのを待って、
「今日のところは、これくらいにしよう。後は戻ってからの発掘計画だ」
「横山さん。大収穫ですよ。…本当は、私は半信半疑だったんです。でも、本当だったんですね」鈴木の顔は興奮のためか、紅潮している。
「俺もそうさ。この目で痕跡を見るまでは…ずっと不安だったが、今はまったくない。…いいか鈴木…この目で爆弾を見るまでは、なにがなんでもやり抜くんだ」
鈴木は感に堪えないという表情で力強く頷いた。横山はニヤリとした。…今夜は眠れそうにもないな…
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み