聖別-7

文字数 741文字

 ロキにくっついて歩いた。そんな彼をロキは鬱陶しがることなく、駄々をこねたあとの子どもが見捨てられ不安で抱きついているのだとばかりに、歩調も歩幅も合わせて移動してくれた。
「ご飯、だいぶ残っちゃったね」
 トレーから皿に移し替えた惣菜の半分が手付かずで残っている。年越しまで二時間だ。風呂上がりに蕎麦を食べようと用意するロキにくっついて、彼は皿を片付ける手元を見つめている。
「……ごめんなさい」
「怒ってないよ」
 手際よくラップをして冷蔵庫に収めながら、ロキが笑った。
「明日、食べればいいんだから」
 背中に額をくっ付けて、こくんと頷く。
「三が日の間は包丁を持っちゃいけないって言われてるんだって」
 不意の言葉に、彼はきょとんとした。
「そうなの……?」
「喧嘩して辞めた店の店長、そういうことに詳しくて、それだけは今でも覚えてる」
 時代が進む中、忘れられて取り残されていくものがある。変えたほうがいいことも、変わらなくていいこともあるだろう。何だか似ていると思ってちょっとだけ笑った。気づいたロキが振り向いたようだった。
「どうしたの?」
 彼はそっと首を振った。
「なんでもない」
 ここではないどこか──遠い過去かも知れない場所で出逢っていた二人が再会したなんて、前世的なものを肯定するオカルトだけれども、すごくロマンチックではある。これが勘違いでもいい。実際は街中で見かけたことがあるだけでもいい。二人がそれぞれ何かを直感していたなら、それはもう、運命だ。
「お風呂沸いたよ」
 給湯器からブザーが鳴った。促すロキにより強く抱きつく。
「先に行きなよ、洗い物したら行くから」
 嬉しそうに笑いながらロキが言うけれど、首を振った。
 恐怖の先に見つけた達成感と幸福感は、彼を世界で一番、満たしてくれている。














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