第17話 シャウト
文字数 1,538文字
「こらっ、待ちなさーい!」
走り出した生徒たちと圭太の後を、西川先生が必死に追いかけてきたが、あからさまに年代の差が出た。先生が音楽室にたどり着いたときには着々と機材の準備が始められていたのだ。
「まったく。……新井さん。校長先生に……見つかったら……どうすんのよ。はあ……。先生、責任取れないよ」
息をぜいぜいと切らしながら、先生がギターを抱えていた生徒に言っている。新井という名前らしい。
「でも、先生が言ったんじゃないですか。あの子をスカイシーに入れてもいいって。これは入部試験なんですよ。ねえ、いいでしょ、お願い、先生」
先生の気苦労など知りもせず、その新井さんはしれっとして先生に両手を合わせた。
「い、1曲、1曲だけですからね。いいですね」
どうやら先生も諦めたようだ。先生と新井さんのやりとりの間にも、着々と準備は整っていっている。マイクも用意され、マイクテストも着々と進む。
圭太は借りたギターを首から掛けてギターの高さを調整すると、軽くチューニングを始めた。
「グリップのとこが細いなあ。やっぱり女の子用だね。まあ、なんとかなるか」
そう言いながら、適当に音階を鳴らして調整をする。ただそれだけで、周りにはアマチュアとプロの違いがはっきりと伝わったようだ。集まってきた生徒たちの顔が期待する表情になっていた。
「よっしゃ、準備オッケー。軽くスタンド・バイ・ミーあたりでいいかい」
圭太がプロとしての余裕を見せながら小声でケイに話しかけた。
「ジョン・レノンが好き」
ケイは圭太を見ながら、「大丈夫でしょ?」という表情を見せた。圭太はニヤリと笑い、ダウンストロークから始まるジョン・レノンバージョンのスタンド・バイ・ミーが始まったのだ。
まるで録音で聞いてるような、ケイの完璧なボーカルと圭太の軽快なギターのリズムに音楽室にいた生徒たちだけでなく、外にいた部活帰りの生徒たちまで集まってきた。
「これ、なんて曲?」
「知らないけど、いい曲!」
「歌ってるの誰? すごくいい声! 憧れるわ」
気持ちよく目の前で繰り広げられるセッションを聴きながら、生徒たちのいろんな感想が飛び交っていた。
曲が終わると「わあ」という歓声と拍手に被さるように、さらにケイのロング・トール・サリーが炸裂する。
——すっげえ……。
実は圭太もさっきまでケイの実力を分かり兼ねていた部分があった。なぜなら初めてのセッションは、マイクも反響もない屋外だった。だが、今日は違う。この学校の音楽室はまるでホールのようであり、音響もすごくいいのだ。ケイのボーカルの凄さを、ケイの特異な才能をまざまざと感じるのだった。
2曲終わるとケイが一息ついた。さらにものすごい拍手と歓声が上がる。
「もう一曲!」
どこからかそういう声が聞こえる。声のする方を見ると、間違いなく西川先生だ。結局一番気持ちよく聞いてたようだ。
「先生のリクエストは?」
圭太が聞く。
「ビートルズ以外ありえないでしょ」
先生がそう言うのを聞き、ケイが圭太に近寄り耳打ちをした。意外な選曲に圭太は少し驚いたが、首を縦に振った。そして「イン・マイ・ライフ」の前奏の美しいメロディと共に、ケイが静かに歌い出した。先生は嬉しそうに目を閉じて聞き入っていた。
美しいメロディが終わると、ケイに何も話しかけず、いきなり強烈なギターが響き出した。「ジョニー・ビー・グッド」の軽快なリズムに乗り、再びケイのシャウトが音楽室に響き渡った。圭太にはこの曲をケイが知らないはずがないという信頼が生まれていたようだった。
2人のセッションは30分ほど続き、オールディーズを中心とした2人の見事な息のあったプレイにその場にいた皆が酔いしれた、入学式前日のサプライズであった。
走り出した生徒たちと圭太の後を、西川先生が必死に追いかけてきたが、あからさまに年代の差が出た。先生が音楽室にたどり着いたときには着々と機材の準備が始められていたのだ。
「まったく。……新井さん。校長先生に……見つかったら……どうすんのよ。はあ……。先生、責任取れないよ」
息をぜいぜいと切らしながら、先生がギターを抱えていた生徒に言っている。新井という名前らしい。
「でも、先生が言ったんじゃないですか。あの子をスカイシーに入れてもいいって。これは入部試験なんですよ。ねえ、いいでしょ、お願い、先生」
先生の気苦労など知りもせず、その新井さんはしれっとして先生に両手を合わせた。
「い、1曲、1曲だけですからね。いいですね」
どうやら先生も諦めたようだ。先生と新井さんのやりとりの間にも、着々と準備は整っていっている。マイクも用意され、マイクテストも着々と進む。
圭太は借りたギターを首から掛けてギターの高さを調整すると、軽くチューニングを始めた。
「グリップのとこが細いなあ。やっぱり女の子用だね。まあ、なんとかなるか」
そう言いながら、適当に音階を鳴らして調整をする。ただそれだけで、周りにはアマチュアとプロの違いがはっきりと伝わったようだ。集まってきた生徒たちの顔が期待する表情になっていた。
「よっしゃ、準備オッケー。軽くスタンド・バイ・ミーあたりでいいかい」
圭太がプロとしての余裕を見せながら小声でケイに話しかけた。
「ジョン・レノンが好き」
ケイは圭太を見ながら、「大丈夫でしょ?」という表情を見せた。圭太はニヤリと笑い、ダウンストロークから始まるジョン・レノンバージョンのスタンド・バイ・ミーが始まったのだ。
まるで録音で聞いてるような、ケイの完璧なボーカルと圭太の軽快なギターのリズムに音楽室にいた生徒たちだけでなく、外にいた部活帰りの生徒たちまで集まってきた。
「これ、なんて曲?」
「知らないけど、いい曲!」
「歌ってるの誰? すごくいい声! 憧れるわ」
気持ちよく目の前で繰り広げられるセッションを聴きながら、生徒たちのいろんな感想が飛び交っていた。
曲が終わると「わあ」という歓声と拍手に被さるように、さらにケイのロング・トール・サリーが炸裂する。
——すっげえ……。
実は圭太もさっきまでケイの実力を分かり兼ねていた部分があった。なぜなら初めてのセッションは、マイクも反響もない屋外だった。だが、今日は違う。この学校の音楽室はまるでホールのようであり、音響もすごくいいのだ。ケイのボーカルの凄さを、ケイの特異な才能をまざまざと感じるのだった。
2曲終わるとケイが一息ついた。さらにものすごい拍手と歓声が上がる。
「もう一曲!」
どこからかそういう声が聞こえる。声のする方を見ると、間違いなく西川先生だ。結局一番気持ちよく聞いてたようだ。
「先生のリクエストは?」
圭太が聞く。
「ビートルズ以外ありえないでしょ」
先生がそう言うのを聞き、ケイが圭太に近寄り耳打ちをした。意外な選曲に圭太は少し驚いたが、首を縦に振った。そして「イン・マイ・ライフ」の前奏の美しいメロディと共に、ケイが静かに歌い出した。先生は嬉しそうに目を閉じて聞き入っていた。
美しいメロディが終わると、ケイに何も話しかけず、いきなり強烈なギターが響き出した。「ジョニー・ビー・グッド」の軽快なリズムに乗り、再びケイのシャウトが音楽室に響き渡った。圭太にはこの曲をケイが知らないはずがないという信頼が生まれていたようだった。
2人のセッションは30分ほど続き、オールディーズを中心とした2人の見事な息のあったプレイにその場にいた皆が酔いしれた、入学式前日のサプライズであった。