文字数 1,047文字

 ある休日、昼過ぎまでベッドに潜ったまま、眠くも無いのに横になり、何となくオザキのことを考えていた。この日、たまたまハマダの両親から宅配便が届いた。開けてみると田舎の菜園で取れたジャガイモやニンジン、たまねぎなどが入っていて、冷凍庫に鶏肉のブロックがあった。ユリも暇だったらしく、珍しく食事を作ると言ってキッチンに立とうとした。それを見て、たまには自分が作ると言って腕をまくった。
「今日は僕が特製のスパイシーカレーを作るよ」
そう宣言し、ユリも楽しそうにその様子を眺めていた。本来の正常な形で夫婦の時間を過ごすことで、心の何かを埋めようとしていた。たまねぎを五個みじん切りにして、フライパンで炒める。バターの塊を落とし、焦げ付かないように飴色になるまで炒め続け、下味として塩を入れる。そこに鶏がらスープの粉末を入れた湯を注ぐ。
「赤ワイン、君のあったろ?」
 ユリがコルクを抜いてくれる間、鶏肉を解凍し、おろし金でにんじんのすりおろしを作った。
「後はワインを入れて、チキンを煮るんだ。クローブも一緒に」
「ねえ、あなた何でそんなにカレー作るの上手なのよ。カレー屋でアルバイトでもしていたの?」
「いや、神保町で外食しているうちにカレーに興味を持って、調べたのさ。君は知らないだろうけど神保町はカレーの街なんだよ。美味いカレー店がいっぱいある」
「そう、知らなかったわ」
「そろそろにんじんのすりおろしとスパイスを入れようか。にんじんのすりおろしが無いと単なるスープカレーになってしまうんだ。何度も食べているうちに気付いた」
「ところで、あなた、よくそんなスパイス常備していたわね」
「まあね、カレーはいつか自分で作ろうと思っていたんだよ。この前、スーパーで使えそうなスパイス全部買ってきたから」
「何だか楽しそうね」
 ユリがリビングのソファに腰掛けた。
「さあ、スパイスを入れるよ。カレーは香辛料が命だからね。何と言ってもターメリックだ。極端なことを言うとターメリックと塩さえあれば、カレーは何とかなる。お次はガラムマサラ、クミン、コリアンダー、カルダモン、そして少量のチリペッパー」
 この日のハマダは饒舌だった。しかしカレーが出来上がる前に、ユリの携帯が鳴り、ハマダに申し訳無さそうにしていたが、仕事関係の友人から夕食に誘われたと言って、家を出て行った。
「カレーは冷凍しておいてよ、いつか必ず食べるから」
 すでに何とも思わなかった。一人で米を炊き、カレーを食べ、作り過ぎたカレーを冷ましてから冷凍し、書斎に戻った。
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