星達の集う時間:2

文字数 1,172文字

   【運命・睡】 ~全てはまだ眠りの中~1

「すまない……」
 パパが僕の頭を撫でて言った。
「ごめんなさい。透」
 ママが泣きながら僕を抱きしめる。
 その手が離れる瞬間まで覚えているのに。

『どうして―』


「……と…る。透ってば!」
 気がつけばそこは研究所の遊戯室。
 闘華の紅い瞳が僕を見つめていた。
「悪夢でも見たのか?うなされていた」
 キィと椅子を揺らして鬼炎が聞いた。
「あ、いや。別になんでもない」
 眉間を押さえ、呼吸を整える。
「透ってば働きすぎなんだよ~」
 膝にちょんと飛び乗りながら氷霊が言った。
「そう思うなら、ちょっとは休ませてやったらどうだ?」
 氷霊の首根っこを鬼炎が掴む。
「あわわっ。なにすんの~」
「だいたいな。透が来る度遊んでって強請ってるの誰だ」
「だって、つまらないんだよ~?」
「だからってな」
「二人ともうるさい」
 黙って聞いていた闘華が止める。
「心配してくれてありがとう。でも、僕は大丈夫だから」
 僕は3人に向かって微笑み、その部屋を出た。

「透、実験体はどうだい?」
 廊下ですれ違った科学者が僕に聞いた。
「順調だよ。別に異常はない」
「順調ね」
 クスリと笑いが漏れるのが見えた。
「俺は実験の事を聞いたんだ。
 実験体に変化は見られないのだろう?
 それで実験が順調だと言えるのかい?」
「何がいいたい?航」
「別に、ただ実験体に接する時間が多いんじゃないかと、他の奴らが言ってたのさ」
 明らかに人を小ばかにした顔だった。
「……そうかもね」
 僕はニッコリ笑って答えた。
 判ってる、皆が言ってる事ぐらい。
「判ってるなら、いいんだがな。あ、そう言えば、貴夜って子、お前の何なんだ?」
 き…よ??
「!!」
「研究所に渡せば面白い事になるかな」
 通り過ぎる瞬間、耳元で航が呟いた。
 僕は何も言えずにその場で拳を握った。

 今更、何の未練があるのか。
 顔さえ思い出せぬ者達に、どうして執着するのか。
「貴夜か」
 一人呟くその声さえ現実には受け止めていない。
 忘れられない時間を思い出すには遠すぎる。
 この自分の部屋には写真も鏡もない。
 あるのは机に椅子にベット。そして、様々な本。
 その中には僕しかいない。
 他には何も存在しないのなら――
 額を抑える手が、冷たく痺れていた。

 小さく呼び出し音がなる。
「透博士。リース主任がお呼びです」
 僕はそれに「判った」と答え、部屋を出る。
 航が貴夜の事をばらしたのか?
 ふっとよぎる考えに頭を振った。


 コンコン。
「どうぞ」
 ため息一つはいて、意を決する。
「失礼します」
「あら。いらっしゃい、透。どうかして?」
 赤いマニキュアを塗っていた手を止めて、手招きをする女性が一人。
「呼びつけたのはそちらですが」
「そうだったかしら?ま、適当に座ってちょうだい」
 リースは紅いハイヒールを履いた足を組み、また、マニキュアを塗り始めた。
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