流星

文字数 493文字

 雪が降ってくれたらいいのにと願わずにいられなかった夕べ、例の喫茶店でカフェオレを飲んでいたよ。
 夜なのにそんなもの飲んで。寝れなくなるよと叱る君はもういないね。
 君の好きなバッハが流れている。僕はデミアンを手に取り、君がドイツ文学に傾倒していたことを思い出す。
 僕にはさっぱりわからないことを君は気づきもしないで、ワルツを踊るような口調で難しいことを言った。僕はJaというより他になく、その言葉に、君は満足げに笑うのだった。
 本当はGermanも文学も音楽もわからなかったよ。僕は君の目を見ていた。君の目に僕が映っているだけで充分な気がした。
 だから初めてNeinと口に出して言った日、君の瞳が傷ついたように揺れたのを僕は少しだけ優越感をもって眺めていた。君の目に移りこんだ電飾がきらきら光って、身を切るような寒さの中それらが暖かそうだとどこか他人事のように思った。 
 僕はラッドウィンプスが好きだった。君、あれから一度でも彼らの曲を聴いた?
 流星群を見るという名目でベランダの縁に寄りかかって、僕はそのまま落ちてしまいたかった。
 彗星なんかよりも君の瞳のほうがずっと美しいと思った。
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