第14話『畑の村とこまかなシンボル』

文字数 743文字

 ぽつん ぽつん と点在する湖を左手に ひたすら進むと、ついに。
「あれが、僕が暮らした“ところ”だよ」
 コリンが鼻でさす先、低い山々を背景に ぽっかり 開いた平野に、集落はあった。コリンが語っていた通りの農村で、畑の ついでに家が建っているという、ちいさな集落だ。
 「あれが僕の家で」コリンは点々とある、似たような、ちいさな家の ひとつをさして言い、「あれがエーファの家だよ」平坦な集落のなかで いちばん目を引く、でっぷり 大きな家をさして言った。
「パリ郊外だとかに建っていたなら、ふつうの……いいえ、ちいさくて貧相な家でしょうけど。ああやって、ミニマムな家に囲まれると途端、まるでお城みたいに見えるわねえ」
 まだ集落との間に距離があるというのに、レアは(ささや)き声で感想を言った。
 たしかに、とコリンは思った。この集落を一度も出ないままで、レアの言葉を聞いていたなら、「そんなことない! エーファの家は どこよりも お金持ちで、広くて、おおきいんだ! 」と反論していたかもしれない。しかし、はてしなく おおきな世界へ飛び出した今では、自分が生まれ育った環境が どれほど貧しく、どれほど限定されたものだったのかを知っている。
「コリンの家を目指す? 」
 リクがアントワーヌに(たず)ねた。アントワーヌは首を横に振る。
「いいや、コリンの言う、エーファという人間の家にしよう。旅人が用事を頼むなら、集団の中心人物だと思われる人間に声をかけるのが普通だろう」
「この集落はちいさいからね。エーファの家に到着する頃にはもう、僕たちの話題でいっぱいだと思うよ! 」
 コリンが ぷるる、と鼻を吹いて言う。
「まるで汽車の中ね」
 ゾーイが微笑む。
「それじゃあ、行きましょうか」
 レアが言い、一行はコリンの故郷に入った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み