第3話 構築と二日間の休日

文字数 4,613文字

翌日には、僕の荷物が届いた。美紀も手伝ってくれて、割と早く片付いたが、何も無い時は随分広く感じた部屋も、僕の領分である一画に荷物を納めると、やたらと狭い。本類は、何処か倉庫でも借りないと今後収拾が付かなく成りそうであった。
「ベットがでかくて邪魔だな。畳んじゃおうかな!」一人ごとを言っていると、其れを聞きつけて
「美紀ちゃんと寝るなら大きい方が良いんじゃない。」茶隠す様に綾姉が言った。
「綾姉見たいに寝相悪く無いし。ベットから落ちたりしないし、それに・・・」僕は反論とも付かない答を返していた。その後の綾姉と僕との、ボケと突っ込みを聞いていた美紀がたまらず吹き出して笑っていた。
 翌日の、綾姉の荷物はもっと悲惨だった。武道関連の防具や武具が部屋の企画を無視して持ち込まれ収拾が付か無い状態となり、取りあえずベランダに緊急回避させ、その後は、学校のクラブで保管願う事にしてもらった。
そんなこんなで住む所も落ち着き、本格的にそれぞれの仕事が始まると、同じ部屋で暮らしている綾姉とさえ、顔を見る事が希となってしまっていた。朝食は、どちらか早く起きた方が用意しておき、夕食は、それぞれで外食の事が多くなった。それでも時々、美紀が支度をしてくれていたが、美紀の顔を見る事はなく、置き手紙の伝言と携帯のメールが唯一の情報交換の場所であった。
何とか、研究の方も一段落して休みが取れそうな週末、夜中を過ぎて、部家に帰ると、僕のベツトに誰か居た。綾姉は昨日から、修学旅行の引率で不在であった。やはり美紀だった。一寸と早く帰れそうなメールをしてしまったため、部家で待ちくたびれて、僕のベツトで寝入ってしまっていた。
「ごめんな、こんな近くに居るのになかなか顔すら見られなくて。」独り言を言いながら、美紀の横顔をのぞいていた。
キッチンのテーブルで遅い夕食を済ませ、浴室へ向かう途中、綾姉の部家を見た時、雪人さんのチラシが見えた。
「綾姉、行ったんだ。」
美紀も綾姉とは別に行ったらしく、後で詳しい話を聞こうと思っていた。シャワーを浴びてから寝る事にしたが、僕のベツトには美紀が居た。
「綾姉の所で寝るわけにも行かないし。まあ、美紀に一寸寄ってもらうか。」
ベット潜り込もうとして、驚いた。美紀は、裸だった。
「遅いよ!」
「ええ、起きてたの。それに何で・・・」
「野暮な事言わせないでよ。」
「和也も早く脱ぎなさい・」そう言うとベットから起きあがり、僕のパジャマを脱がし始めた。
「逢いたかった。」そう言って、僕の顔を美紀の胸に埋めた。柔らかくて暖かい感触が、頬に伝わってきた。同時に美紀の甘い匂いが伝わってきた。そのまま暫く抱き抱えながら横になっていた。たぶん、その心地良さで、一瞬寝ていたのだろ、
「和君かずくん・・和也。起きろ!」
美紀が頬を叩いた。
「やばい、気持ち良すぎて寝入ってた。」
僕は、美紀の胸に抱かれながら言った。
「だめよ寝ちゃ。私に恥じかかせないでよ。」美紀は、僕の頬をさらに叩きながら、キスをしてきた。
「ひげ痛くない。」僕が言うと
「我慢するわ。」
「本当はね、さっきまで寝てたの。和君が来て髪を撫でてくれた時、目が覚めて。別に初めから裸じゃ無かったのよ。」
「でも、もう良いかなと思って、準備してたのに、なかなか来ないし。」
美紀は、僕の胸に被い被る様にして、僕の耳元で話していた。美紀の胸の感触と、心臓の鼓動が伝わってきた。美紀の濃厚で深いキスのおかげで眠気が覚めていた。今夜をしくじったら男として一生後悔しそうな展開を迎えていた。美紀の白い乳房は、程良い大きさで想像していたより大きく感じた。実は、混浴の時、ちらっと見ていたが。柔らかくてマシュマロの様に弾力があった。綺麗な色をした乳首が、可愛らしく乗っていた。口に含むと、甘い様な味がした。乳首から、首筋に唇を滑らせて、再び、美紀の唇に、僕の唇を重ねると、美紀の舌が、別の生き物の様に僕の口へ入ってきた。美紀は受け入れる用意ができていた。その行為に至った時、美紀は小さく身もだえした。
「痛い?」
「うーん、大丈夫。一寸怖かっただけ。」と言うと、すぐに僕の唇を求めてきた。
美紀の舌は、重なり合った二人の行為と相応するかの様に、僕の口の中へ押し入って来た。僕の頭の中が、喜びと興奮の渦に満たされていった。美紀は優しく受け入れてくれていた。そんな、官能の時間が暫く続いた様に思えたが、やがて、美紀の小さな喘ぎ声と共に、美紀の体から力が抜けた。
時の流れが止まるとしたら、こんな感じだろうと想像しながら、美紀をしっかり抱きしめた。絶対に失いたくない、何ものにも変えられない、強い存在として、暖かいぬくもりと安らぎを与えてくれる掛け替えの無い人として、美紀を抱いていた。
二人の行為と、思いが遂げられた頃、外は新しい光りを放ち始めていた。
カーテンの隙間から漏れる光に気が付き、目が覚めた。時計を探し、時間を見ると7時を回っていた。
「あ、ごめん起こしちゃった。」僕が声を掛けると、美紀は恥ずかしそうに、掛け布団をたぐりよせて、顔を半分隠した。
「ごめん、私、・・・みたいで、後の事を覚えていない。和君より先に起きて、モーニングコーヒーを入れてあげようと思っていたのに。」
「ああ、ありがとう。それより、準備も無かったから、この後の美紀の体が心配、まあ、できちゃったらしようが無いけど。」
「大丈夫よ、私、薬剤士よ。」
「でも良かった。ああ・・その美紀との事もだけど、僕がしくじらなくて。美紀との大切な思い出を台無しにしたらどうしようかと。そんな事に成ってたら、美紀の顔見られないよ。」
「私こそ、ちゃんと出来ていたかな。本当に、意識が飛んじゃって。・・・やっと思いが遂げられたね。」
「ああ、美紀とこうして居られて嬉しいよ。」
僕がそう言うと、美紀は僕のむねに顔埋めた。暫くの間、お互いの温もりを感じ会いながら、抱き合っていた。
「今日は、ずうっとこうして居たいな。」美紀が甘える様に言った。
「綾姉も、帰って来るのは、明後日だし、美紀さえ良ければ、休み中一緒に居よう。久ぶりだし。」
「嬉しい!・・・それはそうとして、さっきから変な所触ってない。」
「ああ、ごめん、何だか、もう明るいし、布団剥ぐと悪いかなと思って。」
「また、してくれるのかと思って感じて来ちゃったよ。」
「うんしよう。でもその前に朝飯にしよう。」
「え、本当!今度は、ちゃんと起きてるから。」そう言うと美紀は、裸のまま、浴室兼トイレに駆けて行った。
休日の朝は、人の動きが少ないせいか、外も静かで、普段は聞こえない電車の音がしていた。秋も深間まって来ていた。ふと外苑の公孫樹が気になって、時間が有ったら見に行こうと思いながら、朝食の準備をした。
「そこに、僕のTシャツとトレーナーがあるから、それと短パンじゃ寒いだろうから、綾姉のジャージがあるから。」シャワーから出てきた美紀に声を掛けた。
「有り難う、着替え持ってくれば良かったのだけど。」

美紀が作ってくれた夕食の残りと、コーヒーとパン、そして冷蔵庫に有った残り野菜のサラダ、あとは、カリカリに焼いたベーコンで朝食を取った。キッチンのテーブルでコーヒーを飲みながら、美紀は上目使いに僕の顔みて
「こうして居ると、新婚みたいね。」と嬉そうに言った。
「綾姉の所に、雪人さんの書画集が有ったけど、美紀も行った?」
「ええ行ったわ、私が行った時には、綾佳さんが来ていて、やっぱり大分誤解を受けていたみたい。外見の事から。どうも、大阪のNPOの関係者か、面倒を見ている子のお姉さんと間違えられている様で、でも結構楽しそうだったので、そのままにしちゃった。私も雪人さんに暫くぶりに逢って楽しかったわ。一寸年の離れたお兄ちゃんて感じかな。」美紀はそう言いながら、何気に足を絡ませてきた。
「ちょっと!」
「ねーまだ・・」
「その前に、シャワー浴びたい。」と言うと
「じゃー一緒に入る」と言い出した。
「二人でシャワーじゃぁ寒いだろう。それなら風呂を沸かそう。」僕は、そう言って準備をし始めると、その間に、美紀は朝食の片付けを始め、流しに立っていた。
「それて反則じゃない。」風呂のセットを終えてから、そっと美紀の背後に寄り、下着を着けていない胸と下半身に手を入れた僕に、美紀が言った。
そんな悪ふざけをしているうちに、風呂が沸いた。
「一緒に脱いでるとHぽい。」互いの視線を気にしながら、服を脱ぎ始めた美紀が恥じらいながら言った。
「でも、結構広いのね。このお風呂。それに泡風呂!」
「それも、綾姉の気に入った所かな。」
二人で入るには、十分に広いとは言えないが、それなりに窮屈ではなかった。暫く暖まった後、美紀が僕の背中を流してくれた。
「山の温泉で何度か混浴した時には、気が付かなかったけど、和君の背中に、こんな大きなキズが有るのは、知らなかった。」
「えぇー・・そう。知っているのかと思った。まあ、確かに何度か混浴したけど、美紀のオッパイが意外と大きいと知ったのは、昨夜だったから、身近で見ないと解ら無いかもしれないね。」そう言った僕の顔に、美紀は笑いながらピシャとお湯を掛けた。
「キズの事、美紀にも話して置くよ。」
「これは手術の跡。肺を取ったんだ。」
「肺、」「うん」僕は、このキズの経緯を話し始めた。
「実は、綾姉に襲われたのが、そもそもの発端。」
「襲われた。」
「身内関係では、酔っぱらった綾姉に抱きつかれて、興奮して鼻血を出した事に成っているけど。昨夜の美紀みたいに綾姉が襲ってきた。ああ、昨夜の美紀の方がもっと凄いか。裸だし。」そう言うと、再びピシャとお湯が飛んできた。
「何でそんな気になってしまったか、綾姉にしか解らないけど、少し酔っていたのは本当で、たぶん色々辛い事が有った頃だから。綾姉は、寂しくてどうしようも無くなると
誰かに抱きつく癖が有るんだ。その延長の過激なやつと言った所かな。でも僕には、過激過ぎた。いきなり抱きつかれ、綾姉の胸てでかいから、・・ああ、美紀のも大きいよ。」
三度、お湯が飛んできた。

「思わず興奮したんだと思う。そうしたら、肺の血管が切れて喀血した。」
「喀血?」
「うん、その二―三ヶ月前かららしいけど、結核が進行していて、肺の上の方に小指程度の空洞が空いていたんだ。その周りの血管が切れて、血を吐いた。吐いたといっても、喀血て咽せるんだ。要するに咳き込む度に肺からの血が飛び散る。これは後で、入院した時、患者たちが言ってた話だけど、吐血、吐血て、胃に穴が空いて出血するやつ。吐血は血の海になるけど、喀血は、血の花が咲くて。正しくそんな感じで、あの時は、綾姉の白いブラースに血の花が咲いていた。綾姉は、ビックリしちゃって半狂乱状態、それでも何とか、救急車を呼んで、僕は即入院、緊急手術。」 
「それが、背中の傷跡の経緯です。僕は半年入院して、今はこんなに元気です。手術をしてしまったため、病巣は完全に無く成り、その後は、予防の投薬だけで済んだんだ。」
「でも、大学は入学した途端に、一年休学した。」そんな話を聞いていた美紀は、狭い湯船の中を、僕ににじり寄ってきた。
「和君で、何時もあっけらかんとしてるから。でも結構大変な事経験してるのね。」そう言って軽くキスした。
「そろそろ出ようか」僕が言うと、
「お先にどうぞ。もう少し女磨いてから出る」と言た。
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