D-2

文字数 396文字

『おかえりなさい』
 そう言うと、彼の目がきらきらと瞬いた。
 ――夢か。
 暖かい日差しで目を覚ます。
 ここに来てから、どうしてもぐっすり眠ってしまう。
 コーヒーの匂いがして、彼が飲んでいるのかと思ったら、私の分まで淹れてくれたらしい。コーヒーだけじゃない。この数日間、彼はなぜか私の食事を用意してくれていた。倒錯的な状況に、少し笑ってしまう。

「……カナン。なぜ、死にたいんだ?」
 彼が、私の名前を呼んだ。
 私のなかで何かが弾けた。光の粒が降り注いでいるような、幻覚を見た。
 光の粒は地面に落ちたあともちかちかと輝いていたのに、背後から黒い波が襲ってきて真っ暗になった。
「……死にたいんじゃなくて、殺されたいんです。あなたに」
 あなたに殺されることに、意味があるのに。
「――――あなたが、救世主だから」
 籠を壊してくれた人。
 そこが、籠の中だということすら知らなかった――私を救ってくれた救世主。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み