D-3

文字数 344文字

 昨日も結局、どんなふうに殺してほしいとか、予算はいくらでとか、一方的に挙げられる要望を聞いているだけになってしまった。
 相手にせず追い出してしまえばいいのに。それとも、本人が望んでいるのだからさっさと殺してしまえばいいのに。
「いってらっしゃい」

 やっぱり、心臓のあたりがざわざわする。
 ……そういえば、彼女はなぜ殺されたいのだろうか。
 仕事に向かうなか、ふと思った。
 夕日が沈みきったのを合図に、ターゲットに近づいていく。
「ひっ……! た、助け、ころさな――」
 いつもと、同じ。
 いつもと違うのは、仕事終わりの夕食を誰かと一緒に食べることくらいだろうか。

「――おかえりなさい」
 ドアを開けると、彼女が微笑んだ。
 急に、鳩尾から喉にかけて、何かがふわふわと駆け抜けていったような気がした。
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