第２１話 新デパ地下３０％オフ
文字数 1,815文字
「あと５分、７時になったら３０％オフだ！」
彼女はデパ地下の食品売り場を行ったり来たりして、お目当ての特上寿司が閉店時間が近づくにつれて、ディスカウントされるのを待っていた。今は２０％オフ。３０％オフになったその時、寿司店コーナーには、アリが群がるように十数人の客が並んだ。特上寿司は最後の１個になった。
彼女が手を伸ばすと、横から伸びてきた手とぶつかる。
「すみません」
彼女が謝って相手を見ると、同年齢位のサラリーマン風の男性である。
「いえ、こちらこそ。どうぞ」
「いえ、どうぞ」
２人で譲り合っているうちに、特上寿司は後ろから来た初老の女性に、かっさらわれた。
「あっ」
２人は顔を見合わせて、なんともいえない表情になり、彼女は逃げるように寿司店コーナーを離れた。
◇◇◇◇
翌週の金曜日、彼女は１０分前に来ていた。そして、寿司店コーナーの特上寿司の５個がまだ２０％オフであることを確認した。今日は彼女もゲットできそうだ。
すると寿司店の横の中華コーナーが、いち早く３０％オフを始める。その時、先週の男性が彼女にしたと同じように、目玉商品の最後の１個を取ろうとした中年女性の横から手を伸ばした。
「なによ！」
中年女性は男性の手をピシャリと叩き、悠々と商品を手にしてレジに向かう。
「痛た～」
男性は、叩かれた手を押さえて痛がっているが、顔は二ヤついている。
それを目撃した彼女はカチンときた様子。寿司店コーナーの３０％オフが始まったにもかかわらず、男性に詰め寄った。
「ちょっと、あなた。変な遊びしてるわね」
「いえ、なんですか？」
「しらばっくれてもダメよ。先週の寿司店コーナーで…」
「ああ、あなたは先週にお会いした方でしたか」
「新手のイタズラ？それとも詐欺？」
彼女がヒートアップして声が大きくなったので、周囲の客がジロジロと観ている。
「誤解ですよ。ここでは、なんですから喫茶コーナーにでも行きましょう」
◇◇◇◇
それから１年後、変な出会いではあったが、２人はいつの間にか交際するようになり、婚約した。プロポーズの時に男性は、それまで普通のサラリーマンと言っていたが、実はあのデパートの社長の御曹司で、本部長であると告白した。出会いを思い起こして納得がいかない彼女は、問い詰めてすべてを白状させた。
男性には縁談が山ほど来ていたが、お見合した女性は、みんなおしとやかで物足りず断り続けてきた。
本部長業務の合間に、デーパート内の防犯映像を観て、客層の変化等を把握していたのだが、地下食品売り場に毎週金曜日出没する彼女に目が留まった。そこで、なんとか近づく作戦を考えて実行したとのことである。
３０％オフ商品を週に１度だけ購入する倹約家のところと、ものおじせず自分の意見を言うところに魅かれたとのこと。もちろん、外見も好みのタイプらしい。
◇◇◇◇
プロポーズされた夜、彼女は顛末をパソコンに向かって話した。するとＡＩ婚活マスターから、
「おめでとうございます」
と祝福された。
男性に、彼女というお魚を釣り上げるように仕向けたのは、ＡＩ婚活マスターと彼女が練りに練った作戦の実行によるものだった。
あのデパートの仕入れ先商社の経理をしている彼女は、デパートのホームページや動画投稿サイトに登場する本部長が自分好みのイケメンであり、性格もよいとの口コミを得て、ロックオンした。
突破口は、本部長が防犯カメラの映像を眺めているという情報であった。ＳＮＳ等から女性への外観・性格の好みを徹底的に調べ上げ、彼女はフィットネスクラブで体型を整え、美容整形を行った。
そして、毎週金曜日に彼の好きなオレンジ色のワンピースを着て、地下食品売場で３０％オフの特上寿司を購入して、イートインコーナーで食べて帰るという行動を開始した。
「思ったより早く食いついてくれ、その後は順調でした。ＡＩ婚活マスターへのご相談はこれで終了です」
「ご契約時の期間が半年短縮されましたので、一括お支払金より一部ご返金がございます」
「それはありがたいです。それでは、これで解約ですね」
「はい。そのボタンをクリックされますと、今までの情報や貴方様との通話記録は、全て削除されます」
「今までお世話になりました。クリックします」
彼女はＡＩ婚活マスターとのお別れに、一瞬、寂しそうな表情になったが、スマホから男性の着信メロディーが流れると、満面の笑みとなった。
おしまい
彼女はデパ地下の食品売り場を行ったり来たりして、お目当ての特上寿司が閉店時間が近づくにつれて、ディスカウントされるのを待っていた。今は２０％オフ。３０％オフになったその時、寿司店コーナーには、アリが群がるように十数人の客が並んだ。特上寿司は最後の１個になった。
彼女が手を伸ばすと、横から伸びてきた手とぶつかる。
「すみません」
彼女が謝って相手を見ると、同年齢位のサラリーマン風の男性である。
「いえ、こちらこそ。どうぞ」
「いえ、どうぞ」
２人で譲り合っているうちに、特上寿司は後ろから来た初老の女性に、かっさらわれた。
「あっ」
２人は顔を見合わせて、なんともいえない表情になり、彼女は逃げるように寿司店コーナーを離れた。
◇◇◇◇
翌週の金曜日、彼女は１０分前に来ていた。そして、寿司店コーナーの特上寿司の５個がまだ２０％オフであることを確認した。今日は彼女もゲットできそうだ。
すると寿司店の横の中華コーナーが、いち早く３０％オフを始める。その時、先週の男性が彼女にしたと同じように、目玉商品の最後の１個を取ろうとした中年女性の横から手を伸ばした。
「なによ！」
中年女性は男性の手をピシャリと叩き、悠々と商品を手にしてレジに向かう。
「痛た～」
男性は、叩かれた手を押さえて痛がっているが、顔は二ヤついている。
それを目撃した彼女はカチンときた様子。寿司店コーナーの３０％オフが始まったにもかかわらず、男性に詰め寄った。
「ちょっと、あなた。変な遊びしてるわね」
「いえ、なんですか？」
「しらばっくれてもダメよ。先週の寿司店コーナーで…」
「ああ、あなたは先週にお会いした方でしたか」
「新手のイタズラ？それとも詐欺？」
彼女がヒートアップして声が大きくなったので、周囲の客がジロジロと観ている。
「誤解ですよ。ここでは、なんですから喫茶コーナーにでも行きましょう」
◇◇◇◇
それから１年後、変な出会いではあったが、２人はいつの間にか交際するようになり、婚約した。プロポーズの時に男性は、それまで普通のサラリーマンと言っていたが、実はあのデパートの社長の御曹司で、本部長であると告白した。出会いを思い起こして納得がいかない彼女は、問い詰めてすべてを白状させた。
男性には縁談が山ほど来ていたが、お見合した女性は、みんなおしとやかで物足りず断り続けてきた。
本部長業務の合間に、デーパート内の防犯映像を観て、客層の変化等を把握していたのだが、地下食品売り場に毎週金曜日出没する彼女に目が留まった。そこで、なんとか近づく作戦を考えて実行したとのことである。
３０％オフ商品を週に１度だけ購入する倹約家のところと、ものおじせず自分の意見を言うところに魅かれたとのこと。もちろん、外見も好みのタイプらしい。
◇◇◇◇
プロポーズされた夜、彼女は顛末をパソコンに向かって話した。するとＡＩ婚活マスターから、
「おめでとうございます」
と祝福された。
男性に、彼女というお魚を釣り上げるように仕向けたのは、ＡＩ婚活マスターと彼女が練りに練った作戦の実行によるものだった。
あのデパートの仕入れ先商社の経理をしている彼女は、デパートのホームページや動画投稿サイトに登場する本部長が自分好みのイケメンであり、性格もよいとの口コミを得て、ロックオンした。
突破口は、本部長が防犯カメラの映像を眺めているという情報であった。ＳＮＳ等から女性への外観・性格の好みを徹底的に調べ上げ、彼女はフィットネスクラブで体型を整え、美容整形を行った。
そして、毎週金曜日に彼の好きなオレンジ色のワンピースを着て、地下食品売場で３０％オフの特上寿司を購入して、イートインコーナーで食べて帰るという行動を開始した。
「思ったより早く食いついてくれ、その後は順調でした。ＡＩ婚活マスターへのご相談はこれで終了です」
「ご契約時の期間が半年短縮されましたので、一括お支払金より一部ご返金がございます」
「それはありがたいです。それでは、これで解約ですね」
「はい。そのボタンをクリックされますと、今までの情報や貴方様との通話記録は、全て削除されます」
「今までお世話になりました。クリックします」
彼女はＡＩ婚活マスターとのお別れに、一瞬、寂しそうな表情になったが、スマホから男性の着信メロディーが流れると、満面の笑みとなった。
おしまい
